研究課題/領域番号 |
18K18720
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
梶野 直孝 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (90700352)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ラプラシアン / フラクタル / Klein群の極限集合 / Sierpinski carpet / 自己等角フラクタル曲線 / 複素力学系のJulia集合 |
研究実績の概要 |
平成30年度には,まずラプラシアンの定義が既に確立している円詰込フラクタル,特にその中でも年度当初の時点では詳細な解析を行うことができていなかった場合である,補集合の各連結成分が開円板かつそれらの境界円同士が交わらない(従ってSierpinski carpetと同相であり有限分岐的でない)ような,Klein群(Riemann球面上のメビウス変換のなす離散群)の作用で不変な円詰込フラクタルのある重要な具体例に対して研究を行った.この場合には,本研究課題の交付内定よりも前に既にラプラシアンのWeyl型固有値漸近挙動の証明が研究代表者の研究により得られていたが,その後さらに自然な体積測度に関しほとんど全ての点において,熱核の対角部分の短時間漸近挙動が1次元的であることを証明した.これらの結果について,ドイツで平成30年の9月に開催された9th International Conference on Stochastic Analysis and Its Applicationsおよび10月に開催されたFractal Geometry and Stochastics 6をはじめ国内外の研究集会で研究発表を行い関連分野の専門家らと意見交換を行った. 上記と並行して,円詰込フラクタルではないようなKlein群の極限集合や複素力学系のJulia集合に対しても幾何的に自然なラプラシアンの定義方法を見出すべく関連する既存の研究の精査を行い,等角写像の有限族の作用で不変な単純フラクタル曲線におけるラプラシアンの定義として妥当と思われるものを見出すことに成功した.さらにラプラシアンの同様の定義が,前段落で触れたSierpinski carpetと同相な円詰込フラクタルの擬等角変形(すなわち,元のKlein群の擬等角変形として与えられるKlein群の極限集合)に対しても妥当であろうとの感触を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記「研究実績の概要」に記した2つの話題のうち,前者のSierpinski carpetと同相な円詰込フラクタル上のラプラシアンについては,Weyl型固有値漸近挙動の証明に必要な幾何的性質が満たされているらしいとの感触は本研究課題の応募時点で既に得ており,交付内定と前後してその証明を完成させることができたのは応募時に想定していた予定の通りであった. 一方,後者の円詰込フラクタルではないようなKlein群の極限集合や複素力学系のJulia集合に対し幾何的に自然なラプラシアンを定義する研究については,本研究課題の応募時点ではKlein群の極限集合であるような単純フラクタル曲線の場合でさえ困難であろうと見込んでいたにも拘らず,一般の等角写像の有限族の作用で不変な単純フラクタル曲線およびSierpinski carpetと同相な円詰込フラクタルの擬等角変形という広範な対象に対して解決の見通しが立ったのは予想外に大きな進展と言え,この点では研究は当初の計画以上に進展していると評価してよいと思われる. しかしながら,当該研究結果およびその前提となる結果に関する論文の執筆に関しては,最も基本的な場合であるApollonian gasketの場合でさえ論文の完成にはもうしばらく時間を要するという状況であり,また一般の有限分岐的(各構成単位同士の共通部分が有限集合)な円詰込フラクタルへの拡張については本質的な困難はないはずであると見込まれるにも拘らず技術的詳細を検討するための時間の不足のため満足に取り掛かることができていない. 以上から,円詰込フラクタル以外の場合への拡張に関し当初の計画以上の進展は得られているものの,研究課題全体としては順調ではあるが当初から予定していた水準を上回る進捗状況ではないと評価せざるを得ない.
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今後の研究の推進方策 |
まず円詰込フラクタルではないようなKlein群の極限集合や複素力学系のJulia集合の上のラプラシアンの研究について,等角写像の有限族の作用で不変な単純フラクタル曲線の場合に上下からの劣Gauss型熱核評価およびWeyl型固有値漸近挙動がともにHausdorff測度を距離の指標とする形で成り立つことの証明を試みる.そのための鍵は,当該フラクタル曲線を境界とする平面領域を考えた場合の調和測度(2次元Brown運動の境界への初到達位置の確率分布)に対するある詳細な不等式評価であるとの見当が既についているため,その評価の証明を記した文献の精査さえ済めばそこから証明の完成までに大きな困難はないものと考えている.また同様の事情はSierpinski carpetと同相な円詰込フラクタルの擬等角変形に対しても当てはまるものと見込んでおり,そこで先述の単純フラクタル曲線の場合に引き続いてこの場合に対しても幾何的に自然なラプラシアンが実際に定義できWeyl型固有値漸近挙動が同様の形で成り立つことの証明を試みる. 一方,上記と並行して円詰込フラクタルにおける研究についても,前提となるApollonian gasketに対する結果およびSierpinski carpetと同相な円詰込フラクタルに対する結果に関する論文の執筆を急ぎ,さらに一般の有限分岐的(各構成単位同士の共通部分が有限集合)な円詰込フラクタルへの拡張についても数学的枠組みの設定・技術的詳細の検討・論文執筆を進める. 以上の研究に関し国内外の研究集会で研究発表を行い,結果の周知に努めるとともに関連分野の専門家らの知見を乞う.またSierpinski carpetと同相なフラクタルを双曲群論や2次元擬等角幾何との関連で活発に研究している各国の専門家らを訪問し議論を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度には種々の研究集会への参加のため複数の国内出張および海外出張を予定しているが,それらは2018年度中に決定あるいは計画した予定であり,(現時点では具体的に予定を立てるには至っていないが)Sierpinski carpetと同相なフラクタルを双曲群論や2次元擬等角幾何との関連で研究している各国の専門家を訪問し議論を行うという上述の研究計画を考慮すると2019年度の交付予定額だけでは出張旅費の一部を工面できなくなる恐れがあった.そこで2018年度の交付額の一部を2019年度中に要する出張旅費に充当する目的で未使用に留めたものである. 具体的には,以下の研究集会参加のための国内出張および海外出張の旅費に充当する:2019年7月末~8月上旬の第12回日本数学会季期研究所(九州大学),9月上旬のJapanese-German Open Conference on Stochastic Analysis 2019(福岡大学),9月下旬のAnalysis and PDEs on Manifolds and Fractals(中国(天津)・南開大学),2020年2月上旬のTransfer operators in number theory and quantum chaos(ドイツ・ボン大学),3月中旬のDynamics on homogeneous spaces(ドイツ・ボン大学).
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