研究課題
本研究は,分子内プロトンダイナミクスと結合・連動するパイ電子系電荷ダイナミクスが顕著に発現する強相関電子系分子性物質に対して,伝導ノイズの検出と発生機構の解明,さらに外部ノイズ印加による信号伝達機構の解明と伝達信号増強を試みるものである.本年度は,対象物質群が特徴的に有するプロトンダイナミクスと連動するパイ電子系電荷ダイナミクスが現れる低周波数誘電率測定を行い,日本物理学会などで発表した.パイ電子系を構成するドナー分子を異なる分子で置換すると分子間プロトン結合およびパイ軌道結合のそれぞれの強度をコントロールでき,誘電応答,特に低温でのプロトン量子トンネルと結合した量子常誘電応答がドナー分子の選択により大きく変化することが明らかになった.この結果は,プロトン運動とパイ電子系の結合強度の変化により誘電応答,ノイズ発生の起源となる電荷ダイナミクスが変化することを示しており,プロトン運動-強相関パイ電子系ダイナミクスの連動が明らかになった.また,既存のノイズ測定系の改良を行うために海外共同研究者であるゲーテ大学フランクフルト(ドイツ)のJens Mueller教授と装置改良についての議論をメール,スカイプなどで行った.これまでの保有技術では絶縁体転移後の高電気抵抗状態におけるノイズ測定が困難であるため,この課題克服に向けた検討を開始した.本研究を実施する過程で,プロトン運動をより直接的に観測・評価する重要性を認識し,新たに非弾性中性子散乱実験の実施について専門家と検討を開始した.単結晶試料サイズが中性子散乱実験に対しては十分ではないが試験的に測定を行った.その結果,結晶方位を揃えた複数の単結晶試料(約10mg以下)を準備することでフォノンスペクトルの観測が可能であることを検証することができた.
3: やや遅れている
当初計画では,プロトン運動と相関する伝導ノイズ測定系の改良とノイズ印加回路系の構築が進む予定であった.しかし,ノイズ強度の発散的増加が予想される金属絶縁体転移近傍における高電気抵抗状態では,ノイズ観測におけるS/N比の改善が必要であるがその克服技術の構築に遅れがある.現在,研究実績に記載のようにゲーテ大学フランクフルトのJens Mueller教授との共同研究の中で,この課題への対策を進めている.その中で,高電気抵抗・絶縁体状態での誘電率測定におけるノイズ抽出について実施準備を行っている.
3年計画の2年次となる2019年度は,研究計画の第二段階として,プロトン運動と連動したパイ電子系で生じることが期待される非線形伝導状態におけるノイズ測定から,プロトン運動の外場制御を試みる.このために,研究計画に記した高電圧印加状態でのノイズ測定に加えて前述の誘電率測定と組み合わせたノイズ測定系の構築と強相関分子性導体での実験を行う.また,プロトン運動の直接観測に向けた非弾性中性子散乱実験,赤外分子分光実験を実施する.このような,プロトン運動状態,パイ電子ダイナミクスの観測実験と並行して,最終目的である外部ノイズ重畳による信号伝達増強の実証に向けた複数試料を並列接続した回路設計を実施する.
物品費としていた予定していたノイズ計測系の改良,設計に若干の遅れがあり,計測用部品などの選定に時間を要した.2019年度には,これの設計製作を速やかに実施し遅れを解消するために,適切な部品購入を進める.
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