研究課題
タングステンをドープしたVO2薄膜試料を用いて、540 Tまでの赤外光吸収測定を行った。VO2はモット絶縁体と考えられることもある強相関電子系の一種であり、低温で絶縁体となる。Wドープ量は、昨年度に調べた6%に加えて3.6%、0%と異なる試料を用いた。Wドープ量によって、金属絶縁体転移温度が大きく異なる。6%試料では120 Tから磁場による金属化が観測され、十分な金属状態となるのは500 T必要であることが分かっていたが、3.6%では、金属化の始まりが200 T付近まで高くなることが明らかになった。実験上の技術的問題から360 Tまでしか調べることができなかったが、500 Tまで外挿しても金属状態まで到達しないことも分かり、明らかに磁場誘起現象が物質パラメターに依存していることが確かめられた。また、0%の試料では540 Tまで磁場誘起金属化の兆候は見られなかった。磁場誘起金属化は、固体内のバナジウム原子の2量体(ダイマー)の分子軌道が磁場で壊れたことによる現象と考えることができる。すなわち、金属化する磁場で『化学的カタストロフィー』が生じたと結論できる。実験的に見出されたのは初めてであり画期的な成果であるが、その詳細な振る舞いの解明は今後の発展的な課題となる。特に、Wドープ依存性から、ダイマーの安定性を制御した実験が行えたため、定量的な議論が今後可能になる。特に純粋なVO2では相転移磁場は1000 Tに及ぶ可能性があり、極限的強磁場効果の観点から極めて興味深い。
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arXiv
巻: 2001.08580. ページ: 1-9