本研究の目的は,巨視的な物体も記述できるような拡張量子力学の理論を実験的に検証することである.量子力学を巨視スケールにまで拡張した理論の枠組みの一つとして,質量が存在することによって量子的性質が失われるという,重力デコヒーレンスと呼ばれる考え方が提案されている.それに対して,本研究では,CSL (Continuous Spontaneous Localization)模型と呼ばれる理論に注目し,その検証を行う.CSL模型は,巨視的な物体では「測定」という操作が量子状態に影響を与えないような理論であり,微視的な極限では通常の量子力学におけるシュレディンガー方程式に帰着し,粒子数の多い極限では測定に依存しない結果を与えるという理論である.非相対論的な質点の力学しか記述できないなど,物理学の理論としては不十分な点も多いが,現在までに数学的な矛盾は見つかっておらず,従来の量子力学を拡張する可能性を持った理論模型である.このCSLモデル検証実験を進めた.真空中におかれた懸架系で独立に懸架された2つの鏡で光共振器を構成し,2つのレーザー光を双方から入射する装置の研究開発をすすめた.結果としては,CSLモデルに対して制限を与えるには至らなかったが,地面振動や大気などの雑音源の影響,懸架系や光学系の設計や雑音低減技術など,今後の研究につながる知見を得た.また,最終的には熱雑音の影響が課題になることもも積もられており,低温下での測定の必要性も認識されている.
|