研究課題
本年度は、「π電子のスピン自由度」と「水素結合上のプロトン自由度」がカップリングした新しいタイプの量子スピン液体候補物質の理解を深めるために、4つの置換体(①H-ST、②H-EDT、③H-EDT-d4、④H-EDSe)に関して極低温で磁気トルク測定を行った。これらの物質の磁気トルク測定は2年前に行なっていたが、カンチレバーなどのバックグランドの影響が大きく、試料の磁気信号を評価できていなかった。今回はバックグランドの影響を取り除くことで、精密に試料の磁気トルク信号を抽出しすることに成功した。具体的には、強強磁場ステーションの低温物性マグネットを利用し、幅広い温度磁場範囲で磁気トルク測定を行い、磁化率の温度依存性を評価した。その結果、上記4つの置換体全てにおいて、極低温までスピン自由度が凍結することなく揺らぎ続けていることが分かった。また、そのような状態でギャップレスのスピン励起が存在していることが明らかになった。ギャップレスの量子スピン液体が元素置換による影響を受けずに安定し続けるのは、従来の量子スピン液体の枠組みでは説明できない。これまでに我々が行った誘電率の測定結果を踏まえると、プロトンの量子揺らぎが新しい量子スピン液体の実現に重要な役割を果たしていることが分かった。この内容は、既に物理学会で発表しており、近日中に論文としてまとめて投稿する予定である。今後は、現在進行中のCat系の熱測定(熱伝導率測定や比熱測定も含む)を行う予定である。
3: やや遅れている
本年度は、「π電子のスピン自由度」と「水素結合上のプロトン自由度」がカップリングした新しいタイプの量子スピン液体候補物質であるCat系の研究を行った。しかし、当初予定していたこれらの物質の熱測定は現在進行中であり、研究進捗状況はわずかに遅れていると考えている。
今後は、現在進行中のCat系の熱測定(熱伝導率測定や比熱測定も含む)を行う予定である。
本年度購入予定だった装置があったが、実験の進捗状況にあわせて来年度購入することになった。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件)
Phys. Rev. Lett.
巻: 121 ページ: 097203
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.121.097203
巻: 120 ページ: 217205
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.120.217205
巻: 120 ページ: 177201
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.120.177201