研究課題
本年度は、① H-EDTで実現が期待されている「π電子のスピン自由度」と「水素結合上のプロトン自由度」が結合した新しい量子液体状態を理解するために、3つの置換体(② H-ST、③ H-EDT-d4、④ H-EDSe)の熱伝導率測定を行った。本研究で着目した熱伝導率(κ)測定は輸送測定であるので、遍歴スピン励起とプロトンの量子揺らぎに極めて敏感という特徴を持っているので、本系の研究には適している。我々の極低温までの熱伝導率測定の結果、上記の3つの置換体全てにおいて、従来の物質 ① H-EDTと同様の温度依存性を示すことが分かった。具体的には、プロトン揺らぎの存在する高温では、κ/Tが抑えられているが、1 ~ 3 K以下になるとκ/Tの急激な増大が見られた。これは、プロトンの量子揺らぎのエネルギースケールが、従来の① H-EDTと同程度であることを示唆しており、これまでに行った誘電率測定の結果ともおおよそ一致している。一方、絶対零度に向けて外挿したκ/T(残留項)は、わずかではあるが有限の値を示していることが分かった。有限の残留値が存在するということは、ギャップレスのスピン励起が存在していることを意味しており、これまでの磁気トルク測定の結果と一致している。このようなギャップレスの量子スピン液体が元素置換による影響を受けずに安定し続けるのは、従来の量子スピン液体の枠組みでは説明できない。これまでに我々が行ってきた誘電率測定・磁気トルク測定の結果を総括的に考えると、プロトンの量子揺らぎが新しい量子スピン液体の実現に重要な役割を果たしていると結論できる。これらの内容に関して、再現性などを確認した上で、近日中に論文として投稿する予定である。
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J. Phys.: Condens. Matter
巻: 32 ページ: 074001
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-648X/ab50e9