研究課題/領域番号 |
18K18732
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋山 了太 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40633962)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 超伝導 / カルコゲナイド / 原子層物質 / 界面超伝導 / 薄膜 / 水素 / チタン酸ストロンチウム |
研究実績の概要 |
本研究では、二次元超伝導FeSeについてその薄膜の作製と電気伝導による評価によって超伝導 の性質を調査するものである。具体的には、FeSe/SrTiO3(STO)の界面が超伝導特性に重要であると考えられているため、STO表面におけるデバイ振動数を増加させれば超伝導転移温度Tc を増大させることができるのではと考えた。方法としては軽い元素の水素を修飾することによって界面のデバイ振動数を増加させることを計画した。要素技術として我々は、STO表面に水素を修飾させる技術を開発した。これによりSTO表面が水素原子によって覆われ水素からの電子ドープによってSTO表面が半導体的挙動を示すことを発見した。これを踏まえこの表面にFeSe薄膜を作製すればFeSeとSTOの界面に水素原子を導入することができる。ただ、FeSe自体の超伝導観測もハードルが高く、まず膜厚が1~数原子層程度であることから大気暴露ができないこと、超伝導に影響を与えないキャップ層の形成が難しいこと、抵抗率が低いため 電気伝導率の測定装置を含めた全体的なシステムの開発が必要であることなどが挙げられる。また超伝導実現のためにはSTO表面の化学的・熱的処理が必要でありその最適化も重要である。このため我々は良質な単結晶FeSe薄膜作製の技術開発から行った。また電気伝導測定は超高真空中で行うために、専用の装置(独立駆動4短針STM)を用意した。結果として、STO表面を原子レベルで平坦にすることに成功し、またその上に良質なFeSe単結晶薄膜を作製することに成功した。また電気伝導測定も行い特性を調べたが、降温に伴って抵抗の低くなる金属的な挙動が得られており、超伝導化にはさらなる条件最適化が必要であることが分かった。今後更に条件を詰めて早いうちに超伝導観測と、界面の水素化による影響を調べていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
律速要因としては、予想しなかったいくつかのことが生じたためである。1、接触抵抗が大きく、理想的なI-V曲線が得られない。2、超高真空中での測定のため装置の不具合が多発する。3、抵抗率が低い物質であるため装置の測定下限に注意をはらい、ゼロ抵抗か否かの判断を慎重にしなければいけない。4、良質な試料作製に技術を要する、などである。ただ先行研究に倣うだけでは本質の検証ができないため、一旦ゼロベースで試料作製も行う必要があった。これらの問題に対処するために進捗が遅れてしまった。ただ、STO表面処理は様々な条件で行って最適化ができたので、世界トップレベルの清浄表面が用意できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続き前出4の解決のためFeSeの試料作製に注力していく。具体的にはFe、Seそれぞれの分子線フラックス比を先行研究にとらわれずに最適化し、更にアニール時間と温度も振って更に良い試料を作製したい。そして測定については、電極パッドを超高真空中で作製するための自作装置が完成したので、それを用いてパッドを作り、超高真空中のまま電気伝導測定を行いたい。これによって前出の1は解決できる。また装置メンテナンス頻度を上げることで2を解決し、さらに電極パッドによって良質なIV曲線が観測できれば低抵抗まで確度よく測定できるため、3の問題は解決できる。これらの改良案によって、本研究を更に強力に推進していく。構造評価もin situのRHEEDだけではなくAFM、X線なども援用してきちんと評価して試料作製にフィードバックしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置のメンテナンスなどで時間がかかり、物品購入計画などが後ろ倒しになったことが影響している。このため、本研究に使用する消耗品の購入を次年度にすることになった。具体的にはエタノールなどの薬品や装置のメンテナンスで使う碍子、タンタルワイヤなどである。
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