本研究では,量子光学的な実験技術を駆使することにより,純粋な量子系において,厳密なPT対称性を有する開放量子系を初めて実現することを目的とする.これにより,従来の手法とは全く異なる,PT対称性を用いた革新的な量子状態制御手法,及び革新的デバイスの開発,さらには開放量子系に関する基礎物理学の発展への道を拓くことを目指す.令和2年度は,これまで構築した反射境界と光子の流出効果を実装した量子ウォーク系を用いて時間発展の観測を実施した.特に,下記の3つの項目に関して研究を進めた. 項目1:令和1年度に構築し,適切に動作することを確認していた「光子の流出過程」を時間発展に組み込んだ量子ウォーク系を,より多くの時間ステップに対応できるように拡張した. 項目2:パラメトリック下方変換過程によって発生した光子対を用いた伝令付き単一光子源を構築,量子ウォーク系に入力した.入力を単一光子に変更したことで,出力部では,ファイバープローブと単一光子検出器を用いた光子出力分布測定システムを構築した.ファイバープローブを一次元的に走査することで,出力部分の光子の空間的な分布を測定できるようにした. 項目3:項目1及び,項目2で構築した実験系を用いて,令和1年度に研究分担者の小布施が新たに提案していた開放量子系の時間発展ダイナミクスを観測した.エッジ状態と表皮効果を同時に観測することで,それらの局在効果について物理的な相違を明らかにした.本成果については現在論文にまとめているところである. また,上記以外にも,本研究に関連して,光子の散逸を古典的な限界を超えて計測する手法の提案と解析(New Journal of Physics 2020)や,量子ウォークのトポロジカル相の理論的な解析 (Physical Review B 2020)についても研究を進めた.
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