研究課題/領域番号 |
18K18734
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
椋田 秀和 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (90323633)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 超伝導 / 原子価スキップ元素 / 電荷近藤効果 |
研究実績の概要 |
原子価スキップ現象に由来する有効的な電子間引力(ネガティブU)が新しい超伝導機構となる可能性が理論から指摘されてきた、原子価スキップ元素TlをドープしたPbTeにおいて、微視的なプローブである核磁気共鳴法(NMR)による原子サイト空間分解実験を行った。TeサイトのNMR実験からは、ドーパントTlからの距離に依存して局所電子状態が空間変化していることが示唆された。電気抵抗の上昇と対応するミクロな情報として、電子状態の動的性質を反映する1/T1T が10K以下の低温で異常に上昇していることが、超伝導の組成域の試料(x=1.0at%)のみで観測された。一方超伝導にならない組成域の試料(x=0, 0.35at%)にはその異常は観測されなかった。バレンススキップ元素ではないNaがドーパントのときには異常は観測されないことを実験的に明らかにし、ドーパントがTlのときだけ異常が起こることを確かめた。バレンススキップするドーパントの局在6s軌道の電子が、伝導電子と混成しながら、試料全体へ渡って広くコヒーレンスが発達していることが超伝導の出現条件と関連していることを示唆する。さらに現在この結果をTlサイトNMR実験により、直接的に裏付けできつつある。理論的にも電荷近藤効果の特徴として説明でき、マクロ測定と理論から電荷近藤効果と呼ばれてきたこの現象が、ミクロな視点からも本質的であることを裏付けることができると思われる。上記の成果は、学術論文2偏(下記)、国際会議2件(うち国際会議招待講演1件)、国内外の会議・研究会など(14件)で発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
さらにTl1+とTl3+縮退に伴う電荷揺らぎが起きているのかをさらに直接検証するために、異常の起源と思われるTlドーパントサイトでのNMR測定を試みた。Tlサイトを直接見ているため、これまでTeサイトで観測されたものがより顕著に観測されることが予想される。実際に(Pb0.99Tl0.01)TeにおいてTl-NMR測定を行なったところ、図3に示すようにTl-NMRスペクトルは二つのピークの重ね合わせで観測された。これは、Tlには核磁気回転比が近い203Tlと205Tlの二つの同位体が存在するためである。ピーク位置とスペクトルの概形には30K以下でわずかに変化が見られた。Tlサイトの1/T1Tの温度依存性にも、30K以下の低温でより顕著な1/T1Tの増大が見られることもわかってきた。このTl-NMR測定で観測された低温に向かっての1/T1Tの増大は、Teサイトにおける1/T1Tと比較するとより顕著であったことから、緩和率の異常な増大はドーパントのTlが起源と理解することができる。
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今後の研究の推進方策 |
TeーNMRに加え、最近のTl-NMRの結果を合わせると、電荷近藤効果の空間依存性が理解できはずである。また、異常の起源となるTl-NMRには、電荷近藤共鳴ピークの観測ができる可能性がある。世界的にもまだその観測例はないため、とても興味深い。 これらの成果が出そろってきたら、理論的にも電荷近藤効果の特徴として説明でき、マクロ測定と理論から電荷近藤効果と呼ばれてきたこの現象が、ミクロな視点からも本質的であることを裏付けることができると思われる。 そして、異常な揺らぎを伴う局所電子状態が超伝導を示す試料にのみ見られることがわかってきたので、低磁場で超伝導状態を調べ、超伝導状態におけるオーダーパラメーターの空間依存性を明らかにしたい。 ドーパントの局在6s軌道の電子が、伝導電子と混成しながら、試料全体へ渡って広くコヒーレンスが発達していることが超伝導の出現条件と関連していると思われるので、ドーパントをバレンススキップしない元素も含め、いろいろな元素変えて、違いを観測することで、本現象をより鮮明に浮き彫りにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に購入予定の物品が業者の金属材料の在庫切れで、必要なパーツを揃えられなかった。次年度に入荷後発注することにした。
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