研究課題/領域番号 |
18K18735
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大道 英二 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (00323634)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ウィスパリングギャラリーモード / テラヘルツ波 / 反強磁性共鳴 |
研究実績の概要 |
本研究では、反強磁性体を微小光共振器とする新しいウィスパリングギャラリーモードの観測を行う。この目的に向けて、本年度は測定系、光学系の環境整備を行った。 ウィスパリングギャラリーモードの観測では、エバネッセント波で光源と結合した微小光共振器に対し、入射光の周波数を掃引し、その透過光強度の観測を行う必要性がある。この目的のため、光スペクトラムアナライザを導入した。導入した機種は赤外から紫外に至る広い領域をカバーしており、また、本研究の用途に十分な測定感度を有してることを確認した。また、光源として連続的に掃引可能な通信波長帯波長可変レーザーを採用した。波長精度は100 pmとなっており高い周波数確度を得ることができる。将来的には2波長の光を反強磁性体でできた微小光共振器に導入し、その差周波数での磁気的な励起を目指す。そのため、通信波長帯2色波長可変レーザーについても評価を行った。十分な光励起強度を実現するため、光源と微小光共振器の間にはエルビウムドープファイバー増幅器(EDFA)を挿入し、20 dB以上の入射光強度を実現した。 以上の測定系、光学系を除震架台上に設置し、PCを介して外部から制御可能な環境を整えた。本研究で重要な役割を担う微小光共振器についても、入手先、反強磁性体材料、諸物性についても検討を行った。現時点では結晶性や過去に報告されているスピン励起の周波数特性からNiOが有望であると考えている。また、光学系、測定系の評価に必要となる微小共振器として、ガラス球からなる微小共振器の作製を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度当初、光スペクトルアラナイザの導入にあたり、まず、申請書に記載していた方法との比較検討を行った。申請書では2波長の光を検出するために2つのファイバーブラッググレーティング(FBG)を用いて光を2波長に分割し、各々の光強度を光検出器で検出する構成となっていた。この構成は安価である一方で、適応波長範囲が極めて狭く、将来的な拡張性に乏しい。また、2波長の光強度を検出する際、光強度が個々のFBGや光検出の校正係数に依存するため、両者の絶対的な比較を行うことが容易ではない。そのため、2波長の光を同時に入力、測定可能な光スペクトルアナライザの優位性が明らかになった。このような経緯から、実施計画を変更し、光スペクトルアナライザの導入に至った。そのため、検討時期や納入期間の影響で測定系の構築に時間を費やしたことが、計画よりも遅れている主要因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
光源と微小光共振器の結合には検討の結果、プリズムを介して行うのが良いことが判明している。今後は、微小光共振器とプリズムの精密なアラインメントを可能する精密駆動ステージを導入し、ウィスパリングギャラリーモードの観測を可能にする。 反強磁性体でできた微小光共振器の作製に向け、まずは単結晶円板試料を導入する。ウィスパリングギャラリーモードの観測には高い表面平坦度が求められるため、専門業者に委託し単結晶円板の表面研磨を行う。これにより低散乱、低損失の微小光共振器を実現する。 測定では、まず、単色の光を反強磁性体からなる微小光共振器に導入し、ウィスパリングギャラリーモードの観測を行う。カップリングの最適化を行い、透過光強度の周波数掃引測定から共振モードのQ値を求める。ガラス球などでは高いQ値を得ることが可能であるが、一般に、新規材料では高いQ値を得ることが容易ではない。光学系の調整や材料の最適化などを行う。 また、近接した2波長の光を微小光共振器に導入し、その差周波数でのスピン励起の可能性を実験的に検証する。2波長の差周波数が反強磁性体のスピン励起周波数に合致すると2波長成分の相対的な光強度の変化が期待される。2波長の光が同時に微小光共振器内で共鳴状態にある場合、その差周波数が完全にスピン励起の周波数とは一致しないことが考えられる。しかし、固体中でのスピン励起では多くの場合、有限で広い共鳴線幅を示すことが多いため、その共鳴幅の中に納まるような励起が可能であると考えている。2波長の光の共鳴状態を保ったまま、差周波数を変えて測定を行い、その透過光強度の変化を測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はおおむね、計画通りに予算執行を行った、しかし、年度末の時点で測定系にはまだ未確定の要素が残っていた。。そのため、予算を完全に消化するよりは、継続して検討を行い未確定の要素が解消した時点で物品購入を行う方が効率的であると判断した。このような利用から次年度使用額として少額の予算を繰り越すこととした。
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