研究課題/領域番号 |
18K18737
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松村 武 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (00312546)
|
研究分担者 |
梅尾 和則 広島大学, 自然科学研究支援開発センター, 准教授 (10223596)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
キーワード | 近藤効果 / 量子臨界現象 / スピンゆらぎ / 価数ゆらぎ |
研究実績の概要 |
CeSの圧力下電気抵抗を最低温度1.5 K, 磁場14.5 T,最高圧7.2 GPaまで測定した.その結果,約4.8 GPaの量子臨界圧力に近づくにつれて,電気抵抗率が低温で異常な上昇を示し,その温度変化も単純な近藤効果によるlog T依存性を大きく超える上昇を示すものであることがわかった.横軸を圧力,縦軸をTN直上での電気抵抗率にとったプロットでは,臨界圧に向かっての電気抵抗の上昇は常圧の10倍にも達し,価数ゆらぎの効果が指摘されているCeCu2Si2を上回るほどの上昇である.この急激な上昇の起源を探るため,その臨界圧4.8 GPaまでの圧力下でホール効果の測定も行った.その結果,圧力下でホール係数が上昇し,キャリア数が減少していくことがわかった.ただ,電気抵抗の上昇がギャップ形成と関係しているのではないかとの当初の予想は,ホール係数の温度変化がないことから,ギャップ形成よりもむしろ,通常のスピンゆらぎによる近藤効果とは異なる機構による電子の散乱が増大しているのではないかと考えるようになってきた.むしろ,臨界圧近傍での電荷ゆらぎがd-fクーロン相互作用が強く働くことによる散乱の増大ではないかと考えている. まとめると,反強磁性転移直前の電気抵抗率の急激な上昇については2つの要因からなると考えられる.1つは,結晶場の縮小によってΓ7,Γ8状態が縮退することによるc-f混成の強化,つまり、近藤効果の増強による要因である.2つ目は,圧力印加によって価数揺動状態をとるCe原子が生じ,価数揺らぎによる物性異常が起こりやすい状態となる要因である. また,今年度は初年度であり,今後圧力下実験をさらに進めていくための圧力セルの導入や,測定システムの整備などの環境整備も行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新しい圧力セルの導入や,測定システムの整備なども行い,今後の研究を展開していくための準備を整えることができた.また,従来の圧力セルを使って,量子臨界圧直前までのCeSのホール効果の測定も行うことができた.
|
今後の研究の推進方策 |
新しい圧力セルを使って電気抵抗やホール係数の測定を3He温度領域や希釈冷凍機を使った極低温領域にまで広げる.また,圧力下比熱測定も行い,CeS, CeSe, CeTeにおける圧力下量子臨界現象の全貌を電気伝導と比熱の観点から明らかにしていく.特に,来年度はCeSの量子臨界圧近傍での電気抵抗を極低温まで,ホール係数を7GPa付近まで測定し,同時に比熱測定も行うことが目標である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度導入予定の圧力セル,測定系の整備が予定どおり完了したので,少額の未使用分は翌年度の実験経費として使用したほうが研究計画全体として効果的であると判断した.
|