研究課題/領域番号 |
18K18743
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
辻井 直人 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (90354365)
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研究分担者 |
山岡 人志 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 特別嘱託研究員 (30239850)
櫻井 裕也 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, グループリーダー (60421400)
大村 彩子 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (60425569)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 価数揺動 / Yb化合物 / 圧力 / X線分光 |
研究実績の概要 |
Yb化合物の圧力下における異常な価数減少を、Yb-Cu系化合物を中心にして調べてきた。これまでYbCu5およびYb2Cu9において圧力によるYb価数の減少という異常な振る舞いを見出した。このうちYb2Cu9では圧力による結晶構造の変化が観測され、これが価数減少の主要な原因であると考えられる。一方、YbCu5に関しては圧力下においても構造変化は観測されておらず、価数減少のメカニズムが異なっている可能性がある。 この起源に関してさらに知見を得るため、実験の対象をYbXCu4型化合物に拡張した。実験はSPring-8のBL12において行った。ダイヤモンドアンビルセルに試料を充填し、25GPaまでの圧力を印加しながら、PFY-X線吸収分光法によりYb価数を測定した。その結果、いくつかの他の物質においても圧力による価数減少が観測されることが判明した。しかもこの物質においては圧力による構造相転移は、測定の精度内で見出されなかった。従ってバンド構造の圧力依存性を精密に解析する必要があると考えられる。圧力下におけるX線回折データの精密構造解析を現在進めているところであり、このデータをもとに圧力下の電子構造の解析を行い、異常な価数変化の起源に迫りたいと考えている。 さらにYbCux系化合物において圧力下の電気抵抗測定も行い、圧力により電気抵抗が増加することがわかった。これは価数がより3価に近づいている傾向に対応していると考えられる。 またいくつかのYb化合物で熱膨張を測定したところ、著しく低い熱膨張率を示すものが見出された。この低熱膨張率はYbの価数揺動に関連したものであることが強く示唆されている。この成果は当初予想していなかったものであるが、本課題から見出された、Yb化合物の価数揺動に関連した興味深い物性であり、より詳しく研究を進めることが望まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
YbCux型化合物に関して、圧力下でのX線分光による価数評価とその解析がほぼ完了した。またYbCux型化合物の圧力下X線回折による構造評価が現在進んでいる。加えて圧力下の電気抵抗測定により電子状態の圧力変化に関する知見が得られつつある。YbCu5以外のYbXCu4型化合物においても、圧力下X線分光と圧力下X線回折測定が行われ、価数の異常を見出した。YbXCu4型化合物の試料は非常に乱れの少ない単結晶を用いた実験も行い、その場合にも価数の異常が見出されている。このため、価数異常の原因が格子の乱れではなく本質的な電子状態の変化によるものであることを示唆する結果が得られた。 さらにセレンディピティとして、いくつかのYb化合物において、価数変化に対応した低熱膨張率が価数揺動の活発となる温度域において生じることを見出した。低熱膨張や負の熱膨張は実用上も興味がもたれている。Ybの価数変化による低熱膨張は以前、YbGaGeなどの化合物において海外グループが報告し、大きな注目を集めたことがあったが、その後の追試により否定された経緯がある。今回、本研究で見出されたものは熱膨張と磁化測定によって評価できており、今後のさらなる展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
YbXCu4系化合物においても高圧下で価数の異常な減少を観測しており、またX線回折データも取得ずみである。今後はまず圧力下のX線回折データをもとに結晶構造解析を進め、圧力下での構造相転移の有無および構造パラメータの圧力依存性を確認する。このデータをもとに電子状態計算を行い、圧力による4f軌道と伝導電子の混成がどのように変化するのかの議論を進める。これによって価数減少の起源を明らかにし、論文作成につなげていく。また、いくつかのYb化合物において顕著な低熱膨張効果を観測した。この結果は当初予期しなかった成果であるが、Ybの価数変化に関連した新奇な現象であることは間違いない。そのためこの成果についても解析を進め、論文作成を進める。現在、ヘリウムの供給難や、新型コロナウイルスの感染対策により、実験の遂行が困難な状況であるが、データ解析等は支障なく行えるため、上記の方針に沿って研究活動を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的なヘリウム供給不足により、低温実験の延期が余儀なくされ、液体ヘリウム購入費用に未使用額が生じた。さらに新型コロナウイルスによる一部物品の供給停止、出張のキャンセル、学会のキャンセル、ビームライン実験の停止が相次いだため、未使用額が生じた。次年度は、このような困難な状況が続くことを想定し、データ解析のための物品購入などに使用して、研究を円滑に進められるよう有効に予算を使用する。
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