フレーリッヒが提案した細胞モデルは、細胞中で代謝エネルギーを使ってボーズ・アインシュタイン凝縮が起こるという革新的理論である。その凝縮によりコヒーレントな巨視的格子振動が発生(フレーリッヒ凝縮)する。細胞内の生命活動の基本的過程はタンパク質分子などの生体分子たちの化学反応である。フレーリッヒ凝縮が起こるとそれらの化学反応が起こっている場所では秩序立った地震のようなものが起こり、生体分子同士の認識を助け化学反応の効率を上昇させるなどの効果をもつ。この仮説が正しければ従来の生命科学は大きな修正を迫られる。しかし、細胞の複雑さのためにこのモデルの検証は困難であった。研究代表者は、逆ミセルという微小水滴を用いて構成要素が格段に少ないモデル細胞を構築し、代謝エネルギーの代わりに逆ミセル内にレーザー光やマイクロ波によるエネルギー注入を行うことを着想した。本研究の目的は、逆ミセルを用いてこのフレーリッヒ凝縮に起因した振動スペクトル転移の観測を行い、このモデルの物理的核心部分を検証することである。本年度は、マイクロ波(電磁波周波数:2.45GHz)照射下で試料の温度変化をサーモカメラにより詳細に調べた。その結果、同じ実験条件下の液体水に比べて、逆ミセル中の水が、一桁以上高い熱発生量や熱発生速度を示すことが分かった。通常マイクロ波照射に起因した熱発生は対象物質の誘電率で説明されるが、逆ミセル試料の誘電率を用いてこの結果を理解することはできない。それ故、マイクロ波への非線形な応答や動的な転移現象が逆ミセル内の水で起きている可能性がある。
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