研究課題/領域番号 |
18K18747
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田辺 博士 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (30726013)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | プラズマ・核融合 / プラズマ診断 / 磁気リコネクション / コンピュータトモグラフィ |
研究実績の概要 |
研究初年度となる2018年度は、本研究計画の心臓部となる、プラズマ放射光を多方向から取得する際に必要となる、マルチチャンネル分光システムの構築に着手した。2017年3月に完了した15K20921において取り組んだマルチスリット型分光システム(32CH×3列、2mm間隔)の構築技術をさらに発展させ、64CH×5列(1mm間隔)の光ファイバーバンドルをf=1m、g=1800L/mm、NA=0.06の分光器に、入射スリット幅50μmで接続し(5列、1mm間隔)、分光器出口側は波長方向拡大率2倍スリット高さ方向拡大率0.68倍でAndor iStar DH334T型ICCDカメラに結像させる拡大光学系/非点収差補正光学系つきの分光システムを構築した。 開発した同分光システムは、研究分担者として参加する15H05750で開発された、計測系アクセスに柔軟な新しい合体・リコネクション実験装置TS-6にインストールされた。研究初年度はプラズマ放射光の集光側に16CH光ファイバーバンドルを18組接続し、18スライス分のトロイダル平面の空間分布を再構成することで、合体・リコネクションが起こるX点近傍の詳細な空間分布に加えて、合体するフラックスチューブ全体も網羅したグローバルな2次元空間分布測定を実施した。 同実験によって得られた特徴として、磁気リコネクションを介したエネルギー解放現象では、まずはじめにX点近傍に微細構造が形成された後アウトフロー領域に巨大加熱が発生し、同加熱は合体するフラックスチューブの閉じた磁気面内に閉じ込められることで、ポロイダル平面上でダブルリング型のような構造を形成することが分かった。同加熱構造は、磁気プローブ解析と合わせた熱輸送解析により、磁力線垂直方向の熱輸送が球状トカマクのトロイダル磁場によって抑制され、磁力線方向の熱輸送が支配的となることで形成されることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
通常分光システムの構築においては、入射スリット1列に入射可能な光ファイバー本数はファイバー径×スリット高さで制約されるため、有意な信号を取得できるコア径を維持しつつ高空間分解能を両立させることが難しく、同トレードオフ問題のために例えばファイバー径250μmでスリット高さ20mmの場合、最大でも80本、ダミーコードを入れた場合40本であり、所属組織でもかつては36CH分光システム等が用いられてきた。 15K20921で試験的に製作した3列マルチスリット型96CH分光システムが2017年度以降クリアな二次元計測に成功していることに着想を得て、さらなる空間分解能の増段として17H04863より試作を開始した64CH×5列マルチスリット型分光システムは、本年度より分光光学系の最適化を経て実用レベルに到達した(光学設計ソフトCODEVを用いた光線追跡に基づく最適設計を実施)。同超解像分光システムは、17H04863で当初プラズマ合体実験装置TS-3における磁気リコネクション過程におけるX点近傍のミクロな微細構造解明を目的として開発を開始されたものであったが、15H05750で開発された新実験装置TS-3U(TS-6)の柔軟な光学計測アクセス改善の恩恵を受け、従来型のX点近傍のごく限られた領域へ空間分解能を集中する形での実験だけでなく、2つのトカマク合体の全体積を網羅したグローバルな二次元計測にも応用することが可能となった。 研究初年度である2018年度は、同高分解分光システムについてTS-6装置を用いたテスト実験程度の運用を予定していたが、イオン温度がX点に加えて合体下流にグローバルな構造を形成する過程について、統合熱輸送解析により同構造形成過程を裏付ける熱流束ベクトルのクリアなイメージングに成功し、2編の主著国際誌論文採択へとつながったことから、当初の計画以上に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度は64CH×5列光ファイバーバンドルによる超解像分光システムを16CH×18列の集光光学系に接続してイオン温度計測に運用し、熱流束のベクトル場イメージングを達成したが、次年度は流速ベクトル場測定のためのベクトルトモグラフィコード開発および、それに最適化された集光系システム開発に着手する。 プラズマ放射光を利用したドップラー計測では、流速ベクトルが様々な方向を向いている場合でも、視線方向に平行な成分のドップラーシフトしか検出されないため、様々な方位からプラズマの光を集光する必要がある。スカラートモグラフィの応用で解けるイオン温度と異なり流速はベクトル場であり、速度場の視線方向成分のみが投影信号に現れるため、スカラートモグラフィではなくベクトルトモグラフィを応用した逆問題解法を導入する。 トロイダル流速成分については、2018年度に構築完了したシステムで測定が可能だが、同測定視野のままではポロイダル流速の測定は難しいため、2019年度は同流速成分の検出のための測定光学系の整備を開始する。初年度の実験で得られたイオン温度・発光・ポロイダル磁束分布等を参照して数値ファントムを作成し、ベクトルトモグラフィ計測を模擬した数値実験を行い集光レンズ・計測パス配置の最適化、ポロイダル視線の集光レンズホルダー製作、TS-6装置へのインストールを開始する。 また2019年度は英国との共同研究として、本研究の基幹技術であるイオンドップラートモグラフィ計測を応用した国際共同実験も展開する。東京大学TS-6実験と同様、合体・リコネクションのプラズマ急速加熱法を応用した実験で、これまで世界最高記録を更新してきた英国MASTを超えるさらなる高磁場実験が、英国トカマクエナジーST40実験において計画されており、ドップラートモグラフィ計測手法の技術協力により、同加熱実験の出力最大化シナリオ開拓に貢献する。
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次年度使用額が生じた理由 |
15H05750で建設されたTS-3U(TS-6)について、2018年は低パワー試験運転であったが、2019年度より高磁場実験が開始されることに伴い、今後イオン温度・流速の最大値の大幅な上昇が予測されている。マルチスリット分光法の応用により、初年度は64CH×5列の超高精細分光システムの構築費用を大幅に抑えることに成功したが、今後パラメータレンジの変更に伴う分光システムの設計変更が必要となる可能性に備え、基金予算の柔軟性を活かして翌年度予算繰越を行う。 2018年度内の予算執行および関連研究の予算協力により(15H05750、17H04863)、r-z二次元空間分布を16CH×18点の集光システムに接続して運用することによる、高精細イオン温度分布および熱流束ベクトル場の二次元イメージング計測については、既に当初の予定を上回るクリアな結果を得ることに成功したため、残額は翌年度構築予定のポロイダル流速ベクトル場を測定するための集光測定系の構築予算に主として投じる(ポロイダル流速成分のドップラーシフトを検出するための集光系およびTS-6実験装置への光学系固定治具)。 また国際共同研究を実施している英国トカマクエナジーのST40実験が2019年より高磁場合体・リコネクション運転を開始するため、同研究機関との国際共同実験へイオンドップラートモグラフィ計測の手法を応用し、さらなる国際展開をはかる。
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