研究課題/領域番号 |
18K18751
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上田 良夫 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30193816)
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研究分担者 |
伊庭野 健造 大阪大学, 工学研究科, 助教 (80647470)
Lee HeunTae 大阪大学, 工学研究科, 講師 (90643297)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ繊維構造 / ヘリウムプラズマ / ガスセンサー |
研究実績の概要 |
本研究では、ヘリウムプラズマプロセスで形成される繊維状ナノ構造を応用したガスセンサの開発を世界ではじめて行っている。この手法によって形成する繊維状ナノ構造は黒色率が全ての材料の中で最も高く、極めて構造複雑性の高い材料である。この高次元構造である繊維状ナノ構造材料を用いることで、従来のナノ材料より高精度のガスセンサの開発が期待できる。 繊維状金属ナノ構造をガスセンサに応用する試料の作成手法は独自に開発した手法を用いた。この方法では、繊維状ナノ構造試料は石英基板上にスパッタ堆積させた数百nm厚さの金属薄膜に、ヘリウムプラズマを照射することで作成した。平成30年度は、タングステンの繊維状ナノ構造試料を作成して、水素ガスのガスセンサ試験を行った。実験では、電気炉を利用して、作成した繊維状ナノ構造の酸化処理、および高温でのガスセンサ特性の評価を行った。ガスセンサ特性の評価のために、電気炉内に電気抵抗測定を行うための試料ホルダと電流導入端子設置した。作成した試料の酸化試験と組成分析を行い、酸化条件の最適化を行った。酸化率の変化は、XRDを用いた組成分析で評価し、ガスセンサとしての動作は、電気炉で加熱中の試料に対し、雰囲気ガスを流入させたときの電気抵抗変化から評価した。雰囲気ガスの流量はマスフローメーターで制御した。 タングステンの酸化を、350℃と450℃(酸化時間1時間)で比較したところ、450℃の方が酸化が進み、抵抗が高くなるとともに、水素を雰囲気に混入した際の抵抗率変化が大きくなった。水素濃度100 ppmの時、センサ特性計測時の試料温度が350℃の時に抵抗率変化が最も大きく99.5%に達した。さらに10 ppmまで水素濃度を下げても70-90%の抵抗率変化があった。また、さらなる感度向上のため、マグネトロンスパッタ法でPdやAuをナノ構造の表面に付着させる試みも始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヘリウムプラズマを高融点金属に照射して生じる繊維状ナノ構造は、2006年に発見された新しい知見であり、この構造をガスセンサーに応用した例は我々のグループ以外にはなく、その最初の試みがエタノールのセンサーであった。本研究は、このナノ構造のガスセンサーを水素ガス等の様々なガスに応用することを目的としている。当初は、まず水素が検知できることを実証することが目的であったが、今年度に得られた結果はそれ以上であり、10 ppmという低濃度の空気中の水素を70~90%という非常に高い抵抗値変化率で検知することを実証した。今回の測定方法では、抵抗率の変化が1%程度までは問題なく測定できることが想定されるため、さらに低い濃度(1ppm以下)についても測定が可能であると思われる。この様な感度は、現存する水素センサーの感度限界に近く、このことを考えると我々の開発した水素センサーはすでに既存の水素センサーの域まで達していると言える。この様に、今年度の成果は非常に優れたものであり、そのため上記の評価区分を選んだ。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向は以下の通りである。 〇水素センサーの感度限界を調べるとともに、より感度の高いセンサーを開発する。このために、繊維構造の改良、微粒子の表面添加(Pdなど)、などを試みる。特に微粒子の添加については、(1)繊維状構造を作成する際の試料に合金として添加する、(2)スパッタ法等で表面に蒸着する、(3)ヘリウムプラズマ照射時(ナノ繊維構造形成時)に、レーザーアブレーションやプラズマスパッタリング等の方法で表面に添加する、等の方法を試みる。 〇異なったガスに対する感度を調べ、ガス選択制のあるセンサーの開発を試みる。このために、NO3などの環境影響が懸念される物質について、センシングの感度を調べ、また上記の方法で改良したナノ繊維についても同様の研究を行い、特定のガスの見地に対して優れた特性を持つガスセンサーの開発の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定よりも早く高感度の水素センサーの作成が達成される見通しとなり、そのセンシング特性の詳細な評価を今年度の研究の主眼とした。そのため、微粒子添加の影響や異なったガスのセンシング特性評価などについては、主に来年度の研究課題とした。そのため、水素ガス以外の試験のためのガスの購入費や、微粒子添加に必要な消耗品等の購入を今年度に行わず来年度に行うこととした。一部の費用(87万円程度)については次年度使用とする。
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