研究課題
質量数229のトリウム同位体(Th-229)の第一励起状態(Th-229m)はこれまで知られている中でも最も低い励起エネルギー(約7.8 eV)を持つ核異性体である。近年,30年間誰も成功しなかったTh-229mの直接検出に成功したという報告がついになされた。しかしながら、現在までに“原子核時計”構築の条件であるTh-229mの光励起が成功したという報告は未だなされていない。本申請課題ではTh-229gの光励起によるTh-229m製造法を確立して,確かなTh-229m検出法によりその存在を確認する。本申請課題はTh-229の光励起実験を行うための照射試料を決定するため,真空紫外照射装置の製作,非放射性物質を用いた照射分光試験,Th-228等の模擬試料を用いた試験を経て,Th-229を用いた本実験を行う予定である。本年度は昨年度作成した真空紫外照射装置の性能評価を行った。真空紫外照射装置は真空チャンバーに真空紫外光源と真空紫外分光装置を備えており,試料を照射しながら分光分析できるようになっている。真空チャンバー中の真空度を変化させ真空紫外スペクトルを測定したところ,0.01から0.1 Paの真空度で130 nm (9.5 eV)より長波長領域のスペクトルが得られることを確認した。現在は様々な試料のスペクトルを測定しているところである。また,新たなTh-229試料を入手するため,Th-229をU-233から分離した。当研究グループはTh-229を数十μg所有しているが,Th-229量を増量することで作成できる試料も多くなる。今回は,約5.5 gのU-233を処理することにより,480μgのTh-229を得ることができた。しかし,以前から所有しているTh-229試料に比べ,Th-228が2桁程度多く含まれており,強いα放射能を有していることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本申請課題はTh-229の光励起実験を行うための照射試料を決定するため,真空紫外照射装置を用いて,非放射性物質を用いた照射分光試験,Th-228等の模擬試料を用いた試験を経て,Th-229を用いた本実験を行う予定である。本年度は照射テストに必要な真空紫外照射装置の性能評価を行い,0.01から0.1 Paの真空度で130 nm (9.5 eV)より長波長領域のスペクトルが得られることを確認した。現在は様々な試料のスペクトルを測定しているところである。Th-229模擬試料を作成するために必要なRa-228をTh-232から分離する予定であったが,新たなTh-229試料を入手するため,U-233からTh-229を分離する実験を先に実施したためにまだ分離できていない。Ra-228については昨年度開発した分離手法を基に,Th-232から効率よく分離するための手法を改良しているところである。Th-229については5.5 gのU-233から新たにTh-229を480μg程度得ることができた。これまで所有していたTh-229と比べてTh-228が10倍程度含まれているため,強いα放射能を持っているが模擬試料作製には十分使うことができる。以上から,計画は概ね順調に進展していると考えられる。
来年度前半は引き続き真空紫外照射装置の性能評価および様々な試料の真空紫外スペクトル測定を行う予定である。Th-229光励起・脱励起に関わる光エネルギーは7-10 eVの真空紫外領域であり,フッ化マグネシウムやフッ化カルシウムなど様々な物質のこの領域の真空紫外スペクトルを詳細に調べる。必要ならば少量のTh-232を導入した試料を作成し,その分光分析を行う。また,Th-229自体が強いα放射能を持っているために,α線による分光実験への影響を確かめる必要がある。そのため,同じく強いα放射体であり,入手しやすいトリウム同位体であるTh-228もしくは,本年度分離した比較的強いα放射能を持つTh-229を用いて予備実験を行う。さらに,Th-229試料の更なる入手を行う予定である。当研究グループはTh-229を計 500μg程度所有しているが,そのうち9割はTh-228の含有量が多くTh-229励起実験には不向きである。そこで,新たに数グラムのU-233の提供を受けて,α放射能が比較的低いTh-229の入手を目指す。
真空紫外光照射-分光装置は自作の装置であり,装置内部の構造(測定器,試料固定部分など)を仮組み立てとして安価に作成しているため次年度使用額が生じている。この部分は照射試料を作成しながら改良する予定であり,その費用として使用する。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
PHYSICAL REVIEW LETTERS
巻: 123 ページ: 222501
10.1103/PhysRevLett.123.222501