研究課題
予定されていたクェーサーの観測は、すばる望遠鏡のレーザーガイド星システム開発の遅延により進められない状況にある。私たちはその代わりに、星のスペクトルを使った微細構造定数の測定方法を確立した。恒星、特に低温の星のスペクトル中には、たくさんの吸収線が見られる。それぞれの吸収線は特定の元素に対応しており、吸収線の波長は微細構造定数に依存する。私たちは近赤外線波長域に見られる吸収線波長の微細構造定数依存性を計算した。またその結果を使い、星の吸収線を使った微細構造定数の変化の有無を測定した(Hees et al. 2020 Physical Review Letters)。さらに私たちは、銀河系の中心にある巨大ブラックホールの強い重力場における微細構造定数の変化を検証し、変化の大きさは100,000分の1以下であると制限をつけた。この研究を発展させるため、これまでに収集したデータの再解析を進めた。私たちはこれまでに、銀河系の中心にある巨大ブラックホール近傍の複数の星を観測してきた。しかしこれまでの解析では、微細構造定数の研究に十分は波長測定精度が得られていなかった。そこで波長較正の手法を見直し、これまでに比べて5倍程度高い精度を達成することができた。これにより、微細構造定数の制限をより強くできると考えられる。この解析を進め、微細構造定数の検証を進めていく。さらに将来を見据えて、Keck望遠鏡および30m望遠鏡TMTに搭載される新たな近赤外線高分散分光器HISPECとMODHISの開発計画に参加している。この装置が完成すれば、今よりも高い精度で微細構造定数の研究が可能となる。昨年度はAstro 2020 white paperとして発表した(Mawet, et al. 2019, BAAS)。今年度はKeck望遠鏡とHISPECを用いた、より具体的な観測計画を検討した。
4: 遅れている
2020年度、本研究の直接的な進展はほとんどなかった。その理由は、すばる望遠鏡に設置されるはずの新しいレーザーガイド星システムの開発が遅れているからである。本研究では、重力レンズ効果を受けたクェーサーを観測する。複数のレンズ像が狭い範囲にあるため、これらを分離して観測するためには、補償光学装置とレーザーガイド星システムが欠かせない。しかし2019年に旧レーザーガイド星システムの運用が停止されて以降、未だに新しいシステムの開発が終わってい無い。そのため、私たちではどうしようもない理由で、研究が滞っている。
すばる望遠鏡の新しいレーザーガイド星システムは、2021年前半に望遠鏡に設置され、後半にテスト観測が行われる予定になっている。そのテストを経て、2022年期前半には観測が可能になる予定である。これに合わせて、観測提案を進めていく。2020年にすでに観測提案をしたことがあり、審査員からは高い評価を得ていた。しかしレーザーガイド星システムが使えなかったことで、採択されなかった。この観測提案をより説得力の高いものにして、観測時間の確保に務める。
本研究を遂行するためには、レーザーガイド星システムと近赤外線高分散分光器が必要である。本研究を計画した段階ではすばる望遠鏡に近赤外線高分散分光器IRDが搭載され、観測が始まった。また計画の1年目もしくは2年目には、すばる望遠鏡に新しいレーザーガイド星システムが導入される予定であった。しかし現段階でもまだ、新しいレーザーガイド星システムは導入されていない。観測所の諸事情により、導入が大幅に遅れている。そのため観測提案もできない状況にある。このように本計画の研究者がどうにもできない理由により、研究が進んでいない。これらが本計画を延長した理由である。
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