研究課題/領域番号 |
18K18762
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒見 泰寛 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90251602)
|
研究分担者 |
長濱 弘季 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00804072)
大前 宣昭 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 研究員 (60615160)
田中 香津生 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 助教 (20780860)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
キーワード | レーザー冷却分子干渉計 / 永久電気双極子能率 / CP対称性 / 超対称性 |
研究実績の概要 |
本研究では、電子の永久電気双極子能率(EDM)探索により反物質消失機構を探るために、極性分子を用いた新しいEDM探索手法の確立を目指している。電子のEDM測定には、印加する電場を大きくすることで、測定感度を向上させることができるが、フランシウム(Fr)のような重元素を含む極性分子:Fr-Srでは、分子中の不対電子が感じる有効電場が極めて高く(~GV/cm)、さらに、FrもSrもレーザー冷却・トラップが可能な原子であるために、トラップ原子によるフェッシュバッハ共鳴を用いた原子間力の制御により、冷却極性分子を生成できる。この実験では、大強度冷却Fr源を実現することが重要であり、本年度は、東北大学・CYRICにおいて、原子核融合反応によるFr生成・冷却・トラップ(磁気光学トラップ:MOT)の開発研究を進めた。これまでは、サイクロトロンからの酸素ビームと金標的による融合反応で生成されたFrを、金の融点以上に加熱することで引き出し効率を高く、表面電離によるFrイオン抽出を行なっていたが、1000度以上の高温では、周辺の構成部品も加熱され、様々なバックグランド元素も引き出され、Frイオンビームの純度が極めて低く、下流に配置するMOTへの導入効率・トラップ効率も劣化するという困難があった。そこで、今回、融点以下の低温で金標的を制御することで、Frの引き出し効率をある程度維持しながら、純度と輸送効率を向上させ、MOTでのトラップ効率を上げることを実現した。その結果、定常的にFrのトラップを行うことが可能になり、MOTでの蓄積Fr原子数は、一次ビーム強度で限られるものの、再現性よく、冷却Fr源の生成技術の確立を進めることができた。さらに、このFr収量を増強するために、現在、理化学研究所・AVFサイクロトロンでのFr生成ビームラインの設計を進めており、新しい表面電離イオン源の設計を完了した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レーザー冷却極性分子は、電子EDMの増幅度が格段に大きく、次世代のEDM測定技術として重要であるが、その実現には、分子の構成要素である各原子のレーザー冷却が可能であるとともに、冷却原子集団の個数が十分に多いことが鍵となる。これまでの先行研究では、分子ビームを用いた実験であり、外場との相互作用時間が短く、その結果、測定精度が限られていたが、本研究では、2種の冷却原子をフェッシュバッハ共鳴により融合させ、冷却分子を生成し、光格子へ移行することで、相互作用時間も格段に伸ばし測定精度向上を目指す。したがって、レーザー冷却FrとSrの収量が鍵となるが、Srは安定原子のため実現可能であるものの、Frは、原子量最大の放射性同位元素であるため、原子核反応による人工的な生成が必要となり、その大強度生成技術が鍵となる。今回、東北大CYRICでのビーム強度で、Fr生成・輸送・冷却・トラップを実証し、各段階での効率の評価を行なっており、これらの成果をふまえて、理研・AVFサイクロトロンでの大強度一次ビームを供給することで、確実にFr収量を増強することが可能となり、極性Fr-Sr分子生成に必要な収量に見通しが立ったため、順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
極性Fr-Sr分子生成に向けて、(1) MOTでトラップされるFrの収量増強、(2) フェッシュバッハ共鳴を用いた冷却分子生成の技術開発、(3) 光格子干渉計の開発 の3つが重要な課題となる。そこで、(1)に関しては、理化学研究所において、大強度18Oビーム供給可能なAVFサイクロトロンを用いて、現在、新規で開発を進めている表面電離イオン源を製作・インストールし、MOTでのトラップFr収量の増強を目指す。(2)に関しては、加速器で生成するFrだけでなく、化学的性質が類似している安定原子・Rbを用いて、冷却Rbと冷却Srを用いたRb-Sr分子生成の開発を進め、原理実証を行なった後、Frに応用していく。さらに、Frに関しては、α崩壊して生成する親核であるアクチニウム (Ac)が、近年、医療関係で関心が持たれており、大量製造の可能性が高まっているため、このAcをgeneratorとして、オフラインでAc/Frのトラップ実験を行えるよう、準備を進める。(3)に関しては、Rbを用いて、ラムゼー共鳴を用いた原子干渉計の開発と、光格子実験を並行して進めており、今後は、この2つを融合させ、光格子でトラップされた原子系に関してラムゼー共鳴を観測する技術を確立し、その後、生成Rb-Sr分子系、そして最終的にFr-Sr分子に適用する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
整備予定であった光学物品に関して、納期が当初の見積もり以上にかかり、年度を超えた納品の予定になったため、優先度第2位の物品を先に整備し、次年度使用額とともにあわせて、当初整備物品を購入予定。
|