本年度の研究成果において最も重要なものが、「経路積分の効率化の手法のゲージ重力対応における理解」と言える。2020年度に引き続き、ゲージ重力対応で共形場理論を反ドジッター宇宙における重力理論として扱えることを用いて、重力理論におけるハートル・ホーキング波動関数を、反ドジッター宇宙の境界に初期値を課すことで、構築できることに着目した。その波動関数を用いて重力理論の物理量を計算する際に、計量で積分する必要があるが、その半古典近似が経路積分の効率化を等価であることを明らかになった。もともとAdS3/CFT2の場合にこの解釈を導いたが、実は高次元のゲージ重力対応へも自然に拡張できることが示された。さらには、これまでのユークリッド空間における共形場理論の経路積分の効率化を超えて、実時間の共形場理論に対しても、経路積分の効率化が適用する可能性を提案し、それをもとに、量子計算複雑性を計算した。高柳はこの研究成果に関して、2022年3月に開催された第77回日本物理学会における総合講演で招待講演を行った。
また2020年度の研究で「擬エントロピー」という量が経路積分を使って自然に導入され、また、イジング模型において擬エントロピーが量子相転移のオーダーパラメーターとなることが見出された。本年度の研究では、より一般のXY量子スピン系の量子相転移に関しても擬エントロピーが良いオーダーパラメーターとなることを示した。具体的には、擬エントロピーが、量子相転移近傍でエンハンスすることが分かったが、これをゲージ重力対応で自然に説明することにも成功した。高柳は、この研究成果に関してオンライン開催の超弦理論の国際会議IRCHEP 1400でプレナリー招待講演を行った。
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