研究課題/領域番号 |
18K18773
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 仁研 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (30534599)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 赤外線天文学 / 遠・中間赤外線検出器 / ゲルマニウム |
研究実績の概要 |
波長~30 - 60 μm 帯での天体観測は、天文学的に重要な窓であるにも関わらず、他の波長帯に比べて大きな遅れをとっている (未開拓な波長帯)。未開拓な波長帯は、従来のシリコン (Si) 系検出器がカバーする中間赤外線波長帯 (λ<~30 μm) と、ゲルマニウム (Ge) 系検出器がカバーする遠赤外線波長帯 (λ>~60 μm) とのギャップ波長域に位置している。そのため、波長~30 - 60 μm 帯に高感度かつ実用的な検出器がいまだに存在しない。これが大きな遅れをとっている要因である。本研究では、新たなアイデアでもって、未開拓な波長帯に高い光感度を有する赤外線検出器の実現に挑戦する。 未開拓波長帯に高い感度を有する遠中間赤外線検出器として、Geに高濃度に不純物をドープした受光層と高純度Ge層を接合させた接合型構造を採用し、2次元平面的に構造展開した新たな接合型Ge検出器(以降、2次元接合型Ge検出器)を提案する。つまり、高純度Ge基板面上に、受光層と高純度層が接するパターンが施されている。この実現には、イオン注入法の導入が欠かせない。本検出器の実用化に向けて鍵となるのが、受光層の不純物濃度と深さの制御である。 2018年度では、2次元接合型Ge検出器の設計と試作を計画していた。検出器の設計として、具体的には、素子デザインの検討と受光層のドーピング濃度とその深さの検討を行った。特に後者では、実際にGe試料にイオン注入を行い、イオン注入による不純物濃度の制御性を調べた。その結果、不純物濃度は設定値に対して約30%ほど高いことが分かった。この不純物濃度の不定性を考慮した検出器の試作が必要である。また、検出器を保持する治具の設計と製作を行った。当初計画から遅れているが、検出器の試作と評価への準備はほぼ整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度では、2次元接合型Ge検出器の設計と試作を計画していた。検出器の設計として、具体的に、素子デザインの検討と受光層のドーピング濃度と深さの検討を行った。未開拓の波長帯~30-60 μmに高い光感度を有する実用的な検出器の実現には、赤外線の受光層における不純物濃度の制御性が重要である。そこで、検出器を試作する前に、イオン注入による不純物濃度の制御性を調査した。具体的には、高純度Ge基板へのボロンイオンを注入した試料に対して、深さ方向の不純物濃度プロファイルを調べた。 その結果、ボロンの注入深さは期待通りであったが、ボロン濃度は設定値に対して約30%高いことが分かった。この不純物濃度の不定性は、検出器のS/Nを左右するため、同不定性を慎重に考慮したうえで不純物濃度を設定し、検出器を試作する必要がある。そのために、2018年度での検出器の試作を断念した。検出器の性能評価までを円滑に遂行するために、前倒しで検出器を保持する治具を設計・製作した。検出器の製作が完了次第、性能評価ができる状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、検出器の試作および性能評価を行い、未開拓波長帯での光感度の実証および、アレイ検出器としての実用性を実証する。検出器の試作においては、2種類の受光層の不純物濃度を設定することで、イオン注入による不純物濃度の不定性に対する性能保証を行う。受光層の不純物濃度が異なるそれぞれに対して、当初計画の通り、単素子と単素子を格子状に密に配列した2次元アレイ(最大 5x5画素)を作製する。検出器の不良素子の発生を想定し、同じデザインの検出器を複数個製作することで、確実に性能評価が行えるように対策する。 検出器の評価に関しては、単素子の波長感度特性を測定することで未開拓波長帯における光感度を定量的に評価する。さらに、低背景光環境下における暗電流を評価することで、光検出限界を定量評価する。また、アレイ検出器においては、単素子と同様の性能評価項目に加えて、アレイ検出器の性能としての素子間の電気的特性のばらつきや、電気的クロストークの有無も調べる。これらの性能評価によって、本研究が提案する新しい遠中間赤外線検出器の実用性を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の研究結果により、同年度での検出器の試作を断念した。本研究予算は、検出器の試作費に主に割り当てられているため、次年度使用額が発生した。これと、翌年度分として請求した助成金と合わせて、2019年度で検出器の試作に主に使用する計画である。
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