本研究では Si 基板の高温塑性変形を用いた新しい軽量X線全反射鏡を開発する。Si を高温でプレスすることで結晶面のずれを生じ、自由な形状に変形する日本発祥の手法である。剛性が高く、軽量な Si 基板を用いることで、従来の日本のX線天文衛星に搭載されてきたフォイル方式の鏡の軽量性を保ったまま、角度分解能の向上が期待できる。これまで我々は球面治具を用いた高温塑性変形により4インチの Si 基板の球面塑性変形に成功してきた。
今年度は昨年度実施した円錐治具での変形結果を踏まえた新治具を用いた変形精度の検証を進めた。4インチシリコン基板を円周方向6 cm、母線方向 3 cm にダイシングカットして、基板中央で曲率半径 100 mm の円錐形に変形する。反射角 0.63 deg、焦点距離 4550 mm という従来のX線天文衛星に用いられてきた Wolter I型望遠鏡の1段分相当となる。治具は切削加工により製作した高温変形用の特殊治具であり、凹治具と凸治具で挟み込むことで変形を行う。
これまでの治具形状は理想的な形状から中央部が凹凸治具ともに5-10 um 程度盛り上がった形状をしており、変形後の噛み合わせが特に基板端で悪化していた。結果として角度分解能は中央が30秒角程度だが、端部は1分角を越えていた。新治具では基板中央部から端部までの理想形状からの残差を2-4 um 程度に抑えることに成功し、端部での母線形状は最大で1.5倍程度改善した。またシリコンよりも反射率の良い重金属としてPt原子層膜付け手法も開発し、良好な表面粗さも得た。これらは本手法での秒角鏡の実現を強く示唆するものであり、さらなる発展が期待できる。これらによりJAXA 宇宙科学技術ロードマップにおいて「獲得すべきキー技術」に選出された。また原子層堆積法膜付けの応物学会発表が講演奨励賞を受賞した。
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