研究課題/領域番号 |
18K18781
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日比谷 紀之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80192714)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | メガ津波 / 民間航空機 / 南海トラフ / 電波高度計 / 高精度津波予報システム |
研究実績の概要 |
巨大津波による被害を最小限に抑えるためには、津波の規模や被害が予想される地域を迅速かつ的確に予測し、早急に避難を促す必要がある。しかし、現行の予報システムでは、メガ津波を引き起こす巨大地震の震源域が広範囲に及ぶため、発生原因となった地殻変動を即座に特定することは難しく、メガ津波の予報精度は極めて低いのが現状である。近未来に予想される巨大地震の発生に伴って発生するメガ津波に備えるためにも、震源モデルに頼らない迅速かつ正確な津波予報システムの開発は喫緊の課題である。 この目的のため、本研究では、南海トラフ域など近未来に予想されるメガ津波の発生域上を広くカバーしながら昼夜を問わず飛行している民間航空機の存在に着目している。特に、今年度は、(1)過去に実際に起きた地震津波を数値シミュレーションで正確に再現した上で、 (2)その津波発生時/発生域で現行の民間航空機から得ることのできる津波初期波形の情報を数値シミュレーションの結果から抽出し、(3)その情報をもとにしてどれだけ正確な津波シミュレーションが実現できるのかを(1)との比較を通じて調べることで、民間航空機を利用した津波予測の可能性の検証を続けてきた。 また、本研究結果の適用例の一つとして位置付けている東シナ海の気象津波(あびき)の予報については、東シナ海大陸棚と九州との中間に位置する女島でのリアルタイム津波観測と、その西側海域での民間航空機による水位津波とを組み合わせた警報システムの実現性を検討した。さらに、この検討結果を中心に、2019年5月にクロアチアで開催された「第1回気象津波に関する国際会議」において口頭発表を行い、世界の気象および海洋関係者の高い関心を集めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要でも述べたように、本年度は、昨年度に引き続いて、民間航空機により観測された津波初期波形を使用した津波迅速予報の開発に向けた数値実験、および、その具体的な適用例の一つとして、東シナ海で発生する気象津波 (あびき)の予測システム構築に向けた数値実験を進めてきた。しかしながら、航空機による津波初期波形の観測範囲や観測継続時間をはじめ、これらの数値実験の設定に絡むパラメータの数が膨大な数となり、得られた大量データの解析に予想以上の時間がかかってしまったため、研究結果を論文の形に取りまとめる作業が当初計画よりも遅れてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、数値モデル内で発生させた地震津波の仮想的な航空機観測に基づく津波予測実験の計算結果をさらに集積させていくとともに、それらをとりまとめ、「津波の発生時にその発生域をカバーしている航空機数」や「航空機による津波観測の継続時間」が津波予測精度に及ぼす影響、さらには「迅速性と正確性の両面を考慮した津波警報の発信の最適なタイミング」の検討なども含め、民間航空機を利用した津波予測システムの具体的な構築に向けて、さらに研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況でも述べたように、本年度に実施した数値実験から得られた大量のデータの解析に予想以上に時間がかかってしまったため、研究結果を論文として取りまとめる作業が当初よりも遅れてしまった。そのため、論文投稿費用および出版費用として確保していた予算の一部を次年度使用額として計上し、2020年に出版予定の研究成果論文の掲載費用および出版費用として使用する予定である。
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