従来の津波予報で採用している方式によれば、震源域が広域にわたる巨大地震の場合、原因となった地殻変動を即座に特定することは難しいため、メガ津波の迅速かつ高精度な予測は不可能に近い。将来予想される巨大地震に伴って発生するメガ津波に備えるためにも、震源モデルに頼らない津波予報の開発が必要不可欠である。 これを実現するため、本研究では、将来、メガ津波を発生させる可能性のある代表的な震源域を常に広くカバーするように飛行している民間航空機の存在に注目し、それらを利用した正確かつ迅速な津波数値予報システムの構築の可能性を検討してきた。今年度は、この予測手法を実際に2010年3月に九州西方沿岸域を襲った気象津波(あびき)の事例に適用することで、その有効性を調べた。具体的には、九州ー中国大陸間の主要な二本の航路上において複数の仮想的な航空機を一定速度で移動させ、各航空機が観測した気象津波の波形データの時空間的な差異の解析からその伝播方向や波長を推定した。その結果、二本の航路が近接し始める男女群島付近では、このデータ解析により、東シナ海を九州西方沿岸域に向かって伝播する気象津波の実態の把握が十分可能であることが示された。気象津波の実態が検知される男女群島付近から九州西方沿岸域に到達して各湾内で水位振動が始まるまで約1時間の猶予があり、この間に住民への避難警報などの発令は十分可能である。 以上、これらの数値実験から、民間航空機を利用した津波の早期かつ高精度予測は、近未来に発生が予想される南海トラフの巨大津波の予報に向けて非常に有用な手法であると位置づけられる。飛行ルートや時間帯などによる予測精度のばらつきなど、今後解決すべき問題も多いが、民間航空機による津波予測が可能となれば、日本のみならず世界各地で発生する地震津波の早期検知が可能となり、津波被害の著しい低減につなげていけるものと結論できる。
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