本年度では、当初の計画通りにスラブ深部条件下におけるカンラン岩の一軸圧縮試験をSPring-8にて行った。従来より広く支持されている深発地震発生メカニズムの仮説によると、カンラン石の圧力誘起相転移が地震発生のトリガとなっているものと考えられる。そのため実験では、深発地震発生領域の温度圧力条件下(700-1200℃、10-17 GPa)においてカンラン石多結晶体試料を一軸圧縮変形させつつ、カンラン石の圧力誘起相転移を同時進行させた。これまで開発を進めてきた「マイクロAE測定システム」を用い、高圧下にて変形する微細試料(直径1mm、長さ1.2mmの円柱状)から発生するAEの測定を行った。 まず、950℃以上の高温下ではAE発生をほとんど伴わない塑性変形が卓越した。高温下ではカンラン石の相転移とそれに伴う細粒化が試料中にて均質に進行するため、変形の局所化(剪断集中)は起きなかった。一方900℃以下の比較的低温下では、試料からのAE発生が確認された。特に大きなAEが試料内外から連続して発生する場合(ラプチャー現象)には、変形の局所化に由来する断層形成と断層すべりが伴われることが確認された。微細組織観察より、断層ガウジはカンラン石及びその高圧相(ワズレアイトまたはリングウッダイト)のナノ粒子から構成されていることが確認された。以上より、カンラン石が高圧相に相転移する際の細粒化が局所的に進行した場合には、断層形成や断層すべりに至る場合があるものと考えられる。本研究にて行った、スラブ深部条件下における岩石破壊実験は世界初の試みであるとともに、カンラン石の圧力誘起相転移に伴う細粒化が深発地震の原因であることを実験的に証明したことも世界初となる。今後は得られた成果を国際誌にて公表する予定である(投稿準備中)。
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