研究課題
これまで分析したエアロゾル試料は、複数のハイボームエアサンプラーをタイマーで制御して数日間毎にサンプリングしたものであったために、数日間の内に変動した複雑な気象因子を含んでいた。そのために菌類トレーサーと放射性セシウム(137Cs)との間には、マンニトールとの相関を除き、当初予想していた明確な関係は認められなかった。今年度は、2019年の春から秋にかけて12時間毎に採取したフィルター試料(約50サンプル)を用いて気象因子の複雑さを除去した。その結果、Fungal spore organic tracer(菌類胞子トレーサー)であるトレハロース、マンニトール、アラビトールと137Csの間に正の相関関係が存在することが確認できた。しかも、相関係数は昼間よりも夜間に増大することが明確となった。この結果は、湿度の高い夜間に菌類の活性・胞子の放出が上昇し、137Csの拡散が増大することを意味している。これらの研究結果は、キノコなど菌類とそれらの胞子が福島原子力発電所のメルトダウン事故によって大気中に放出され土壌中に蓄積されている放射性セシウムの大気中への再飛散プロセスにおいて重要な役割を果たしていることを明確な形で実証した。本研究の結果は、当初考えていた作業仮説を強力に支持するものであり、自然界における137Csの地球化学的・大気化学的プロセスを明らかにした大きな成果であると言える。特に、土壌中に蓄積した放射性核種は微生物的・地球生物学的プロセスによって大気中に放出することを明らかにした初めての研究である。また、本研究は、放射性核種で汚染された土壌を取り除くことの重要性を改めて明確にする科学的根拠を提供するものであり、社会的なインパクトは大きいと言える。
1: 当初の計画以上に進展している
大気エアロゾル試料のサンプリング時間などを再検討したうえで、サンプリングを再度行った。それらの試料を化学分析した結果、土壌中に蓄積されている放射性セシウムの大気中への再飛散のプロセスを明確な形で証明した初めての研究成果を出すことが出来た。しかも、菌類胞子トレーサーと137Csとの相関係数が昼間よりも夜間に高いことがデータ解析から明確に言えた。この結果は、湿度が上がる夜間に菌類活動が活発となり胞子の飛散を通して土壌から放射性セシウムを大気に放出していることを意味しており、本研究の結果は大気化学的・地球化学的に重要な研究成果へとつながった。
2019年の試料の分析は2020年の3月末にでた物であるため、そのデータ解析はまだ初期段階である。今後、関連データを出すことによって、本研究の重要性を更に固めていく。今後、国内外の学会での口頭発表を行うと共に、論文発表に向けた作業を開始する。2020年度中の論文の投稿・受理を目指す。
本年度に採取したフィルターの化学分析が完了しておらず、令和2年度に有機炭素等の測定を行う必要がある。次年度使用額を繰り越し、OC/EC等の測定に必要となるヘリウム・純空気など高純度ガス、有機溶媒などの試薬を購入する計画である。
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