研究課題/領域番号 |
18K18791
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
河村 公隆 中部大学, 中部高等学術研究所, 教授 (70201449)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 福島原発事故 / 放射性セシウム / 菌類胞子 / 大気エアロゾル / 菌類トレーサー / アラビトール / マンニトール / トレハロース |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、福島原発事故によって大気中に放出された放射性セシウムの菌類胞子による土壌から大気への再飛散を解明することである。
これまで分析したエアロゾル試料は、複数のサンプラーをタイマーで制御して数日間毎にサンプリングしたものであったために、数日間の内に変動した複雑な気象因子を含んでいた。そのために菌類トレーサーと放射性セシウム(137Cs)との間には、マンニトールとの相関を除き、当初予想していた明確な関係は認められなかった。 そこで、2019年の春から秋にかけて12時間毎に採取したフィルター試料(約50サンプル)を用いて気象因子の複雑さを除去した試料を分析した。その結果、菌類胞子トレーサーであるトレハロース、マンニトール、アラビトールと137Csの間に正の相関関係が存在することが確認できた。 相関係数は昼間よりも夜間で高いことが示された。この結果は、湿度の高い夜間に菌類の活性・胞子の放出が上昇し、137Csの拡散が増大することを意味している。これらの研究結果は、キノコなど菌類とそれらの胞子が福島原子力発電所のメルトダウン事故によって大気中に放出され土壌中に蓄積されている放射性セシウムの大気中への再飛散プロセスにおいて重要な役割を果たしていることを明らかにした。 本研究の結果は、申請者らが提案した作業仮説を強力に支持するものであり、自然界における137Csの地球化学的・大気化学的プロセスを明らかにした大きな成果である。特に、土壌中に蓄積した放射性核種は微生物的・地球生物学的プロセスによって大気中に再放出することを示した初めての成果である。また、本研究は、放射性核種で汚染された土壌を取り除くことの重要性を示す科学的根拠を提供するものであり、社会的な貢献・インパクトは大きい。 現在、最初の分析結果をEnviron. Sci. Tech.誌に投稿する準備を終えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大気エアロゾル試料のサンプリング時間などを再検討したうえで、サンプリングを再度行った。それらの試料を化学分析した結果、土壌中に蓄積されている放射性セシウムの大気中への再飛散のプロセスを明確な形で証明した初めての研究成果を出すことが出来た。しかも、菌類胞子トレーサーと137Csとの相関係数が 昼間よりも夜間に高いことがデータ解析から明確に言えた。この結果は、湿度が上がる夜間に菌類活動が活発となり胞子の飛散を通して土壌から放射性セシウムを大気に放出していることを意味しており、本研究の結果は大気化学的・地球化学的に重要な研究成果へとつながった。
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今後の研究の推進方策 |
化学分析のデーター解析を進めており、第2、第3の論文を準備する予定である。それらを2021年度中に国際誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で国際会議への出席がキャンセルされた。残金を次年度で使用する。
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