研究課題
これまで分析したエアロゾル試料は、複数のサンプラーをタイマーで制御して数日間毎にサンプリングしたものであったために、数日間の内に変動した複雑な 気象因子を含んでいた。そのために菌類トレーサーと放射性セシウム(137Cs)との間には、マンニトールとの相関を除き、当初予想していた明確な関係は認められなかった。この研究は、2022年に国際誌のAtmosphereに掲載された。しかし、これまでのサンプリングの複雑さに起因する研究の弱点を補完するために、2019年の春から秋にかけて12時間毎に採取したフィルター試料(約50サンプル)を用いて気象因子の複雑さを除去した試料を採取しその化学分析を行い、そのデータ解析を行った。その結果、菌類胞子トレーサーであるトレハロース、マンニトール、アラビトールと137Csの間に正の相関関係を示すことが確認された。また、相関係数は昼間よりも夜間で高いことが示された。この結果は、湿度の高い夜間に菌類の活性・胞子の放出が上昇し、137Csの拡散が増大することを意味している。これらの研究結果は、キノコ など菌類とそれらの胞子が福島原子力発電所のメルトダウン事故によって大気中に放出され土壌中に蓄積されている放射性セシウムが大気中へ再飛散されるプロセスにおいて重要な役割を果たしていることを明らかにしたものである。本研究の結果は、申請者らの作業仮説を強力に支持するものであり、自然界における137Csの地球化学的・大気化学的プロセスを明らかにした大きな成果である。特に、土壌中に蓄積した放射性核種は微生物的・地球生物学的プロセスによって大気中に再放出することを示した初めての成果である。また、本研究は、放射性核種で汚染された土壌を取り除くことの重要性を示す科学的根拠を提供するものであり、社会的な貢献をするものであり関連分野へのインパクトは大きいと判断できる。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (25件) (うち国際共著 23件、 査読あり 25件、 オープンアクセス 14件)
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