研究課題
白亜紀末(K/Pg)境界の生物絶滅現象については、石灰質殻を持つ円石藻類には大きな絶滅が見られたが、珪藻のグループへの影響は少なかったと考えられている。これは「衝突の冬」による光合成阻害説よりも「硫酸雨による海洋酸性化説」と調和的である。この「硫酸雨による海洋酸性化説」は、海水の酸性度予測 の定量性が高く、時間スケールも数ヶ月程度と短く、挑戦的研究の研究期間内に生物飼育培養実験手法による検証が可能であると考えて、本研究課題を申請した。研究期間前半は、サンゴ(ミドリイシ類の初期ポリプ)と有孔虫(サンゴ礁棲底生種)を対象にした硫酸添加海水による成長評価試験に取り組んだ。研究期間後半は、白亜紀の海水組成を模した高アルカリ度海水を調整し、サンゴ(ミドリイシ類の初期ポリプ)の骨格成長評価試験を試みた(実験区1)。また、将来の海洋酸性化状況を模した通常のアルカリ度・低pHの実験区(実験区2)、白亜紀の海水を現在の大気二酸化炭素分圧の下で平衡化させた実験区(実験区3)、そして対照区(現代の表層海水)を設定した。白亜紀海水の炭酸塩飽和度は、対照区と同程度に設定された。1ヶ月のポリプ飼育により、実験区ごとに石灰化量及びマイクロフォーカスX線CTによる観察で顕著な違いみられた。白亜紀海水の実験区は、対象区とほぼ同程度の石灰化速度を示した。実験区3では、4つの実験区で最大の石灰化量を示し、実験区2は最小であった。今回の予察的な結果は、海水の炭酸飽和度が石灰化に重要なパラメータであることを確認するとともに、地球温暖化の緩和を目指して検討が進められている海洋ネガティブエミッション・海洋アルカリ増進技術の試みに関係した示唆にも富む。白亜紀海水を用いた硫酸添加海水による成長評価試験は、当初から本研究課題の対象外であり、今後の検討課題として残されたが、その準備は整ったと考えられる。
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Marine Biotechnology
巻: 24 ページ: 524~530
10.1007/s10126-022-10115-1