研究課題
当初の計画に従って,(1) 走査透過型電子顕微とTES型X線マイクロカロリメータ (STEM-TES) を用いたX線マイクロアナリシスにおいて電子線照射が試料に与えるダメージを実験的に調べる,(2) X線スペクトル解析に用いるSTEM-TESの光学系も考慮した応答関数の精度を高める,の2つとそれに関連する研究を行なった。(1)については,昨年度の研究から試料へのダメージを抑えるためにはTES検出器の使用可能な画素数を増やことが必須であることがわかり,これを行うことを決定した。そのために必要となるSQUID(超伝導量子干渉計)を用いた極低温初段増幅器とそれを実装する基板の製作をすすめた。今年度は,多くの素子を有効に使うために,走査透過型電子顕微との位置関係を変更してTES素子に,より一様にX線があたる配置の検出器ヘッドを開発した。これに加えて,より低質量の元素(たとえば B)を検出するために,より低いエネルギーのX線まで検出可能なTES型X線マイクロカロリメータを開発した。これは当初の計画を超えた成果である。この検出器を搭載した検出器ヘッドを走査透過型電子顕微搭載の冷凍機に組み込み,標準試料の分析まで実施した。その結果,より低い電子戦照射で初年度と同様な統計精度のデータが得られることがわかった。(2)については,新しく作成した検出器の応答関数作成を行うとともに,元素の定量分析の手法としてゼータファクター法を適用する検討もすすめた。以上の成果を査読付き学術誌論文に公表した。
2: おおむね順調に進展している
電子線照射によるダメージを抑えるために,使用可能な検出器画素数を増やすための検出器ヘッド開発に加えて,当初の計画にはなかった,より低い質量の元素を検出するための検出器の開発を行なったが,年度内にこれらを冷凍機に組み込み,標準試料の測定まで行った。解析方法の研究も,応答関数の改定を検出器の改良にあわせてすすめた。したがって,計画は概ね予定通り進んでいるといえる。
現在,冷凍機に組み込まれ, 透過型電子顕微鏡に搭載されている計測システムを使って,標準試料の分析,鉱物の分析をすすめる。この計測システムは安定に動作しており,これを用いて定量分析手法の確立のための実験を安定的に実施できると考えている。実験としては,標準試料を用いて,電子線の照射方法ととダメージ量の関係を確認した後,隕石などの試料の測定にはいる。そのデータ解析では,標準試料をレフェレンスとしゼータファクター法も試みる。以上の実験と解析から,STEM-TESによる定量分析手法の確立,という当初の目的を達成することが期待される。
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JOURNAL OF LOW TEMPERATURE PHYSICS
巻: 199 ページ: 908-915
10.1007/s10909-019-02326-z