研究課題/領域番号 |
18K18805
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
柴田 隆行 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10235575)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡(AFM) / AFMナノ加工 / 酸化チタン光触媒酸化反応 / チップ増強ラマン分光法(TERS) / 細胞操作 |
研究実績の概要 |
本研究では,将来のナノ・バイオテクノロジーを支える革新的な製造基盤技術として,原子間力顕微鏡(AFM)を応用した新規なナノ加工・計測技術の開発を目的としている.具体的には,光触媒であるTiO2を被覆したAFMプローブを用いた細胞のナノ加工技術と,Agナノ粒子を被覆したAFMプローブを用いた一分子計測技術(チップ増強ラマン分光法:TERS)を同時に実現することで,インプロセスかつリアルタイムで加工状態を可視化する技術の確立を目指している.平成30年度に得られた成果は以下の通りである. (1)TiO2光触媒AFMプローブを用いた細胞膜のナノ化学加工(光触媒酸化反応)において,押込み速度の影響を明らかにした.その結果,押込み速度が100nm/s以下では細胞膜穿孔確率が100%になることがわかった(押込み速度150~300nm/s:穿孔確率70~80%).さらに,押込み速度が小さな条件下では,荷重が一定となる特異的な現象が認められることを定量的に評価し,細胞膜の光触媒酸化反応に起因していることを示した. (2)Agナノ粒子被覆AFMプローブを用いた細胞内TERSイメージング(生体分子の同定)を行い,その性能を評価した.その結果,細胞核と葉状仮足ではラマンスペクトルに明らかな違いが認められ,高空間分解かつ高感度での分子同定が可能であることを実証した.さらに,細胞内の生体分子の時系列変化からタンパク質とグリコーゲン(多糖類の一種)の量的変化が逆相関を示すことが認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TiO2光触媒プローブを用いた細胞膜のナノ化学加工(光触媒酸化反応)においては,通常のSiプローブ(細胞膜穿孔確率50%)に対して穿孔確率70~80%以上(押込み速度100nm/s以下で100%)を達成した.また,生細胞染色用蛍光色素(Calcein-AM)を用いた実験によって,細胞膜穿孔後の生存率が100%であることを確認しており,本提案手法が低侵襲かつ高効率な細胞ナノ加工技術として技術的優位性を有していることを実証した.また,Agナノ粒子被覆プローブを用いたラマン分光(TERS)イメージングにおいては,細胞内の生体分子のダイナミクス観察が可能であることを示した.さらに,自作の倒立顕微鏡組込み型顕微ラマン分光装置において,加工用光源(波長330~380nm)および計測用光源(波長532nm)を同時に試料(細胞)に照射した際にも光の相互干渉が起こらないことを実験的に確認できたことから,次年度の目標である加工・計測機能の同時実現の可能性を実証するための準備が整った.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に得られた結果に基づき,以下の研究実施計画にしたがって研究開発を実施する. (1)前年度に引き続き,Agナノ粒子を担持したTiO2光触媒AFMプローブの作製プロセスの最適化を行う.(2)加工用光源(波長330~380nm)および計測用光源(波長532nm)を試料(細胞)に同時に照射することで,細胞膜のナノ加工(光触媒酸化反応)とラマン分光(TERS)を同時に実現できることを実証する.(3)加工用光源(波長330~380nm)の波長を可視光領域(波長400~440nm)とし,金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴(TiO2光触媒表面に担持したAgナノ粒子からの光誘起電子移動を利用)に基づく可視光領域(波長400nm以上)での光触媒酸化反応を誘発し,低侵襲な細胞のナノ加工技術としての新たな可能性を実証する.(4)加工用光源を水銀ランプ(波長400~440nm)からピコ秒レーザ(波長405nm)に変更し,細胞膜穿孔時の光電流計測に基づく極微量な有機物の分解量(光触媒酸化反応)のインプロセス計測技術の可能性を検討する.(5)抗体修飾AFMプローブを用いて,抗原抗体反応の高い分子認識機能に基づく特定の膜タンパク質の選択的な同定・破壊(酸化分解)手法としての可能性を示す.
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