研究課題/領域番号 |
18K18809
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大参 宏昌 大阪大学, 工学研究科, 助教 (00335382)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ドライエッチング / 水素 / 金属 / プラズマ / 高圧 / 化学輸送 / 成膜 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトの目的は、毒性のあるケミカルを一切もちることなく、またプロセスの過程で一切発生させることもない、電子デバイス用の銅配線技術を開発することにある。とりわけ、本研究が狙う配線技術として、銅のエッチング、ならびに成膜技術が挙げられる。本年度は、昨年度明らかになった、高密度水素プラズマによる銅エッチングの基本特性を元に、銅の化学輸送成膜を試みた。銅のエッチングレートは、原子状水素密度に依存するため、原料となる銅と基板の近傍で生成されるプラズマ密度に差を生じさせることで、銅原料から基板への一方向性の輸送が可能となる実験系を構築した。これにより原料銅からのエッチングにより得られる揮発性銅化合物を用いて作製される銅薄膜の特性を調べた。得られた銅薄膜は、成膜雰囲気が100Torrという、高圧雰囲気で有りながら、気相中で凝集形成された微粒子等を含まない緻密な構造を呈した。また基板から柱状に連続的に成長した銅薄膜の形成が確認された。また、同一圧力で実施される真空蒸着により形成される銅薄膜の構造と本手法により形成される銅薄膜の構造を比較することにより、水素プラズマの効果を検証した。その結果、真空蒸着で形成した銅薄膜は、微粒子の堆積により薄膜が形成されている様子が確認された。このことから、水素プラズマは成膜前駆体の生成以外に、基板上での銅薄膜の表面拡散に寄与していることが示唆される結果を得た。また本手法により形成された銅薄膜は、基板への密着性も良好で有り、得られた抵抗率も、銅の報告値に近い値が得られた。また、銅前駆体の生成量を向上させるため、成膜雰囲気に窒素を混合して成膜を実施したところ、成膜速度は水素100%プラズマに比べて15倍、膜表面は目視レベルで平滑であることが明らかとなり、ユビキタスなガスを用いて銅薄膜の化学輸送形成が可能であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画目標は、水素プラズマを用いた銅のドライエッチングを利用し、原料銅から生成される反応種を利用した化学輸送により、銅薄膜を形成する手法の原理実証を行うと共に、得られる膜の特性を詳らかにすることであった。本年度は、成膜原理を実証するための実験系の構築、得られる銅薄膜の構造、電気抵抗、さらには水素プラズマの役割などを計画的に明らかにしてきた。これにより、高価で毒性のある銅系の成膜前駆体を用いることなく、銅の化学輸送成膜が可能であること、さらには銅薄膜の構造特性に水素プラズマが大きな役割を果たしていることを世界で初めて実証した。また、水素ガス中に10%程度の窒素を添加することで、成膜速度を15倍に向上できることを新たに発見し、さらにその薄膜の抵抗率も銅の報告値とほぼ同等であることを明らかにしてきた。さらには、本手法の付き回り性を評価するため、パターン付き熱酸化Si基板上への銅成膜を実施し、トレンチ内への銅の形成特性を評価し、本手法の配線プロセスへの適用可能性を示すことができた。以上の結果を鑑み、当初の研究計画のとおりに成果は積み上げられており、研究は概ね順調に進展したと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は、概ね順調に推移しており、引き続きエッチング機構の解明と配線技術への応用に向け、計画を進める。とりわけ、本研究により発見された添加ガスによるエッチング促進効果に集中し、エッチング機構の解明に向けた研究を進める。これまでの研究成果から、水素プラズマ中に僅かに窒素を添加することで、銅のエッチングレートが大幅に向上するとともに、成膜レートも上昇することが世界初の知見として得られている。今後は、本添加ガスの効果が窒素固有のものであるのか、他のガスでも出現する効果であるのかを検証する予定である。とりわけ、水蒸気は、容易に入手可能で、危険性もないため水蒸気添加による効果を探究する予定である。また、水素プラズマによるエッチングが、銅以外の金属にも適用可能であるかを検証するため、対象金属をAl、Fe、Ni、Ag、Wなどに展開して研究を進める予定である。またエッチング対象に、金属結合を有さない物質を選択し、そのエッチング特性を金属結合をもつ物質と比較することで、エッチング機構の解明に迫る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、成膜原理の実証のために考案製作した装置が、本年度使用予定に空白ができた設備を有効利用し、当該装置に僅かに手を加えることで実現可能となった。また、本年度は銅薄膜の成膜原理実証とその特性評価のために時間を割いた。とりわけ、本年度は、添加ガスを加えての成膜原理実証までを拡張して行った。これにより、当初の他の金属材料に対するエッチング特性の検証などを後年度に実施する計画とした。これにより、高単価な金属材料の入手が不要となった。また本年度末には、世界的な疫病発生によって学会等の開催中止が決定され、出張旅費が不要となり、次年度使用額が発生した。今後の使用計画として、これまでの研究成果から、エッチング機構の解明に迫る上で、X線光電子分光法による表面計測、ならびに二次イオン質量分析法による評価が必要であることが明らかになり、次年度使用額を含めた助成金は、これら新たな試料評価法の利用料に活用する予定である。また、本年度中止となった成果発表を次年度に実施していくため、論文校正費、ならびに学会出張・参加費等として活用する予定である。
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