研究課題/領域番号 |
18K18816
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡部 正夫 北海道大学, 工学研究院, 教授 (30274484)
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研究分担者 |
小林 一道 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (80453140)
藤井 宏之 北海道大学, 工学研究院, 助教 (00632580)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | アクティブマター / 表面プラズモン共鳴 / 濃度分布計測 / マイクロ流体システム |
研究実績の概要 |
本研究で検討するアクティブマターは,溶質の固体表面上の濃度分布により自走する,溶液とは非混和性の液滴である.着目しているアクティブマターのメカニズムは「液滴表面における溶質の吸着分布の不均一によるMarangoni効果によって液滴が運動する」と提案されているが詳細は不明である.本研究の目的は,アクティブマターを用いたマイクロ流体システムを開発するために,アクティブマターのメカニズムを解明することである.そのために,今年度は2事項に着目して検討した. 1.液滴発生装置:固体表面上に液滴を生成する装置の開発を行った.特に,液滴が固体表面上に衝突する速度を制御可能とするために,気流によって液滴を加速して10m/s程度の速度で固体表面に衝突可能な液滴発生装置を開発した. 液体送り速度と気体供試圧力とを制御することにより,液滴径と液滴速度とを制御することが可能であることを確認した. 2.液滴挙動観察システムの構築:本研究で構築する表面プラズモン共鳴観察による濃度分布計測システムを構築するための基本光学システムを構築した. 表面プラズモンを発生させるためには,観察部底部から臨界屈折率以上で光を入射させ,光を基盤表面で全反射させ,液体側にエバネッセント波を染み出させる必要がある.そのためにガラスプリズム等の光学機器を用いて,光学系を構築した.更に購入した高速度カメラを用いて,液滴が基盤表面に接触する過程が観察可能であることを確認し,観測システムの空間分解能,および時間分解能を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は以下の2項目について検討を行った. 1.液滴発生装置:液滴発生装置を構築することにより,液滴径と液滴速度とを制御させて観察部に液滴を生成することが可能となった.液滴が基盤上の液膜にどの程度の速度で衝突するかによって,液膜内の溶質分布が大きく変化し,アクティブマターの挙動が大きく変化するため,アクティブマターの挙動を解析するためには,液滴径と液滴速度とを制御させて観察部に液滴を生成することが必要不可欠である.本液滴発生装置を構築することにより,所定の要求が満たされることを確認した. 2.液滴挙動観察システムの構築:表面プラズモン共鳴観察による濃度分布計測システムを構築するための基本光学システムを構築した. 観察部底部から臨界屈折率以上で光を入射させ,光を基盤表面で全反射させ,液体側にエバネッセント波を染み出させる光学システムを構築した.購入した高速度カメラを用いて,液滴が基盤表面に接触する過程の全反射観察が可能であることを確認した.観測システムの空間分解能,および時間分解能を確認し,観測システムとしては,所定の要求が満たされることを確認した. しかしながら,観察システムを構築するためには,全反射観測システムだけでは不完全であり,表面プラズモンを発生させるために,全反射光学システムの観察部に金薄膜を蒸着した基盤を設置する必要がある.表面プラズモンの発生を確認し,溶質濃度によって全反射光の屈折角がどの程度変化するかを確認し,溶質濃度と屈折角との関数を求めるまでを本年度の到達目標としていたが,本年度は光学システムの基本部分の構築に留まった.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,構築された装置を用いて,本年度に引き続いてアクティブマターのメカニズムを検討する. 1. 表面プラズモン共鳴観察による濃度分布計測システムの構築:本年度までに構築された基本光学システムと改良し,表面プラズモン共鳴観察による濃度分布計測システムを構築する.表面プラズモン共鳴の共鳴条件が,基板表面の状態に敏感に変化することを利用して,入射角を固定することで基板表面に吸着した溶質濃度分布を反射率の関数として 光強度分布として定量化する.溶質吸着濃度と反射率との関係を求め相関関数を求め,固体表面における溶質吸着濃度分布を評価する. 2. 単一アクティブマター運動の解析:得られた表面プラズモン共鳴観察結果から,アクティブマター近傍の溶質吸着濃度分布の時間発展を可視化しアクティブマターの駆動力を評価する.アクティブマターの主要な駆動力は,接触線近傍での溶質濃度差であると考えられているが,様々な不均一性に起因するランダム運動を発現する.このランダム運動の発生原因を特定し定量的に評価する.そのために,溶質の基板表面上の吸着濃度分布の時間変化を詳細に計測し,アクティブマターの運動と溶質濃度分布の不均一性との関係を考察する. 3. 複数アクティブマターの秩序状態とメカニズムの解明:複数個のアクティブマターの運動による溶質吸着濃度分布の時間発展を観察し,アクティブマターの協同運動を定量的に評価し,メカニズムを解明する.アクティブマターの自己推進能を利用してマイクロ流体システムを構築するためには,アクティブマターが協同的に運動することが不可欠である.そのため,二つのアクティブマターの間に働く相互作用を,溶質吸着濃度分布の時間変化を元に考察する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は表面プラズモン共鳴観察による濃度分布計測システムを構築する予定であったが,その基本光学システムである全反射観測システムの構築のみにとどまった.そのため,本年度計画していた,表面プラズモン共鳴観察システムが開発未達となっている.表面プラズモン共鳴観察システム構築のためには,基板表面に吸着した溶質濃度分布を反射率の関数として 光強度分布として観察することが必要となり,そのための光学システムを構築するために,次年度使用額を使用する. また,今年度開発した基本光学システムでは,十分な空間解像度を有していることが確認されたが,より詳細な観察を行うためにはより高精度な空間解像度が望ましい.そのために,長距離顕微鏡レンズを新たに購入しより高精度な観測システムを構築するひつようがある.長距離顕微鏡レンズを購入するために,次年度使用額を使用する.
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