本研究は,来たる水素社会での水素サプライチェーンにおいて,エネルギーコスト低減に直結する水素ポンプの性能を向上するための,革新的数値解析モデルを開発するものである.ポンプではキャビテーションという現象が発生する.キャビテーションとは,液体が加速する場所で圧力が局所的に低下し,飽和蒸気圧を下回ることで主に蒸発により気体が発生する現象で,ポンプを高性能化(小型・高速化)する際にしばしば発生し,性能低下を引き起こしてしまう.このキャビテーションには信頼できる数値解析モデルが存在しないため,実験による性能試験が容易ではない水素ポンプの設計に対して数値解析を用いることもできず,高性能化が難しくなっている. 研究代表者は,現存の全てのキャビテーションモデルに共通する問題点は,発生の閾値を飽和蒸気圧の一定値としているところであると考えた.液体中に溶け込んだ溶存気体の析出による影響によって,キャビテーションの初生が飽和蒸気圧ではないことは実験的に良く知られた事実である.この根本的なモデルの問題を解決すべく,本研究では,実現象での気体発生の動的閾値の定式化を行う. 研究3年目は,前年度までの回転同心円筒油中キャビテーション発生実験により得られた平衡析出領域と非平衡析出領域の気体性キャビテーション発生特性に対し,その領域が2つに分かれるメカニズムを最大析出速度で説明し,溶存気体濃度を仮定して領域境界の定式化を行った.また,平衡析出では,析出圧力が減圧速度に対しては一定であるものの,回転速度に対して不連続的に3つの領域に分かれて値を取ることがわかった.これらの3つの領域では,乱流数値解析の結果,回転数の上昇に伴い流れ場が層流クエット,直線状テイラー渦,波状テイラー渦と変化しており,平衡析出では流れ場の形態によりそれぞれ一定値となる析出圧力の値が不連続的に変化することがわかった.
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