研究課題/領域番号 |
18K18841
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福島 誉史 東北大学, 工学研究科, 准教授 (10374969)
|
研究分担者 |
ベ ジチョル 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 准教授 (40509874)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | ハイドロゲル / フレキシブルデバイス / FHE / 微細配線 / チップ内蔵 |
研究実績の概要 |
近年、無機単結晶半導体の性能と有機基板の柔軟性を融合したフレキシブル・ハイブリッド・エレクトロニクス(FHE)の研究が注目されている。我々は、無機単結晶半導体チップを有機基板に埋め込んだ新構造FHEの研究に取り組んでいる。チップを極薄化せずともウェハレベルで高集積なフレキシブルデバイスシステムが作製可能である。PDMSを基板として用い、曲率半径5mm以下で1,000回以上の繰り返し曲げ耐性を実現させている。フレキシブルデバイス用の基板としてPETやポリイミドが主流であるが、柔軟性はあるものの立体的な形状に対する追従性が低い。PDMSはこの問題を解決できる生体適合性の高い材料であり、ウェアラブルやインプランタブルデバイスなどの研究開発で広く利用されている。ところが、物質の透過性が低いため、肌に対する馴染みや、体内に埋め込む際には組織液の循環を妨げる課題が残る。ここでは我々の身体のように水を主成分とするハイドロゲルをPDMSの代わりに用い、高集積なフレキシブルデバイスの基板として採用する。ハイドロゲルは、コンタクトレンズにも使われる機能性高分子である。多くの水を含むゼリー状のハイドロゲルでは、昇温プロセスや真空プロセスを適用できない。これまで導電性高分子として知られるPEDOTを使った電極をハイドロゲル上に形成した先駆的な研究はあるが、微細な金属配線を形成した報告は無い。本研究では、生体親和性の極めて高いが加工が難しいハイドロゲル基板の上に高密度の微細配線を形成し、半導体チップを内蔵させてフレキシブルデバイスシステムとして機能させるためのプラットフォーム技術基盤を構築する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Siウェハ上に犠牲層として厚さ1μmの水溶性高分子を成膜した。次いで、絶縁層として厚さ1μmパリレンを成膜し、ドライエッチングによって抵抗測定用のホールを形成した。その後、スパッタによってTi/Auを15/500nm成膜し、フォトリソグラフィとウェットエッチングにより配線を形成した。保護膜として再度厚さ1μmのパリレンを成膜し、波長172nmのエキシマランプによって表面を親水化した後、ハイドロゲル原料を注型した。続いて石英ガラスで圧縮成型すると同時に、波長340nmの紫外線でハイドロゲルを硬化させた。最後に60℃の温水でウェハからサンプルを剥離した。チップ接合する場合は、ハイドロゲルの注型前に行うが、本年度はチップの埋め込みまでは実施していない。 犠牲層である水溶性高分子の上にパリレンを介してスパッタによりTi/Auを堆積させた結果、平坦な金属薄膜を得るには、成膜温度が大きく影響することが分かった。水溶性高分子のガラス転移温度以下にスパッタ温度を制御することによって平滑な金属薄膜が得られた。スパッタ後、ハイドロゲルを注型、硬化し、温水で剥離した後の写真から、微細加工する前であるが、剥離後も金属薄膜をハイドロゲル上に保持することが可能であった。今回はチップ実装工程を省略して配線形成工程に焦点を充てているが、このRDL(Redistributed Layer)-First FOWLP(Fan-Out Wafer-Level Packaging)と呼ばれる先端の半導体パッケージング技術を応用し、微細な配線を形成できることを示した。二端子の測定結果であるが、十分に低い電気的特性が得られた。また、この技術を使用して、無機単結晶半導体チップがハイドロゲルに内蔵されたFHEを作製できる可能性が示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、配線幅を10μm近傍まで微細化するとともに断線やクラックの少ない高い歩留りで微細配線を形成できる技術を確立し、曲げ試験を行って機械的耐久性を評価する。曲げ試験機には、Tension-free U-shape folding tester (DLDMLH-FS / Yuasa)を採用する。また、有限要素法を用いたシミュレーションを駆使して、機械的な応力の発生パラメーターを解析し、信頼性の高い配線をハイドロゲル上に形成する。特に、チップの厚さやチップ間距離、配線幅、表面保護膜、応力中立軸を最適化し、応力集中が起こらない構造を求める。最終的には、曲率半径20mm、繰り返し曲げ回数1,000回に耐えられるように材料設計、および機械設計を行う。一方、チップの埋め込み技術に注力し、RDL-First FOWLP(Fan-Out Wafer-Level Packaging)技術を確立すべく、チップ接合技術の研究を進める。水溶性樹脂の上に形成した微細配線の上に、半田のマイクロバンプを形成し、低温の熱圧着で半田を形成する。半田の候補としては、Agを添加したSn系、あるいはIn系やBi系の低温半田を採用する。フリップチップボンダーで接合に必要な環境条件や操作条件を追求し、接合強度10MPa以上の強い接合を得る。また、ハイドロゲルにチップを埋め込む際に重要となる、水の影響を最小限に抑えるための被覆材の材料、成膜法、厚さなどの構成要素についても検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、3月に予定していた物品の納期が4月以降に遅れたためである。しかしながら、別途手持ちの材料を使用することで一時的に代用できたため研究には全く遅れは無い。最終年度では、計画通りに研究が遂行できる見通したが立った。
|