本研究は,中赤外領域において充分に小さな過剰損失を有する中空導波路型カプラを実現するための必要条件とその機構を明らかにすることを目的としている。本年度は以下について検討を行った。 1. カプラの試作と評価:前年度までに得られた設計指針を基に,目的の中空導波路型カプラを製作し特性の評価を行った.製作では,まず,AgI内装中空光ファイバ(コア径1mm,長さ25cm)を,曲げ半径100cmの円弧形状のアルミ治具に紫外線硬化樹脂で固定し,研磨深さ50umとなるように側面を研磨した.次に,同工程で研磨した2本の中空光ファイバの研磨面を貼り合わせることにより,カプラ構造を形成した.評価では,光源にCO2レーザ(波長 10.6um)を用いた.製作したカプラは,おおよそ設計通りの分岐比を示し,1.0dB以下の過剰損失を達成したため,実用に十分な特性を有していることを確認した. 2. 惑星観測用ヘテロダイン分光器への実装:試作したファイバを東北大学理学部(中川・連携)の惑星観測用ヘテロダイン分光器に搭載し,CO2レーザとのヘテロダイン検波により,QCLの発振スペクトルの検出の成功した. 研究期間全体を通じて,中空導波路型ファイバカプラの設計指針を確立し,中赤外領域において充分に小さな過剰損失を有するカプラを実現した.この新しいカプラは,分岐比が自由に制御可能であり,製作コストにも配慮されている.実際に,惑星観測用ヘテロダイン分光器において機能することも確認できた.これにより,研究実施計画に示した目標はおおよそ全てが達成された.また,研究の過程で,本カプラが非対称な興味深い分岐特性を示すことが明らかとなった.このことは本カプラ構造が超高効率なコンバイナとして機能することを示唆している.
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