本研究では、電流磁界ではなく、スピン軌道相互作用(SOI)を動作原理とする新しいタイプの電磁石の提案・動作実証を行い、ナノスケールでの集積化・実装が可能なコイルレス磁気デバイスエレクトロニクスの端緒を開くことを目的とする。具体的には、強磁性薄膜と重金属の接合界面における強いSOIを介して生じるスピン軌道トルク(SOT)を用いて、ランダムな多磁区構造と単一磁区構造という状態間のサブナノ秒でのスイッチングを最終目標とする。 昨年度にSOTによる多磁区状態→単磁区状態の変化を実証しており、本年度はナノ秒でのSOTによる磁化安定性の実証を行った。ナノ秒レーザー光を用いて瞬間的に試料を発熱させるセットアップを構築し実験を行った。Co/Pt系材料においてSOTがない場合、5ナノ秒のレーザー照射に伴う多磁区構造の発生が確認された。しかしSOTが存在する状況下では、この多磁区状態の発生が見られず単磁区状態が維持されることがわかった。このことは、ナノ秒の時間スケールにおいてもSOTによる磁化の安定化が可能であることを示唆していると考えられ、サブナノ秒でのSOT電磁石動作の実現にとって非常に重要な知見である。 さらに強磁性/非磁性/強磁性の3層構造での新しいタイプのSOTを発見した。このSOTは従来のスピンホール効果によるものとは異なる対称性を有している。これは、SOTのさらなる高効率化につながる成果である。
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