研究課題/領域番号 |
18K18850
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関 宗俊 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (40432439)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | パルスレーザー堆積法 / 酸化鉄薄膜 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、室温で動作する革新的な脳機能模倣型の電子デバイスを開発することである。今年度は、脳型素子応用に有望な材料と考えられる、クラスターグラス磁性体を対象として、そのグラス転移温度の上昇や外光や熱などの微小な外部刺激に対する応答性の向上を目指し実験を推進した。室温スピングラス酸化鉄(ガーネット型フェライトおよびスピネル型フェライト)薄膜の作製実験においては、二段階でターゲットを切り替えるパルスレーザー堆積法を用いることにより、非磁性元素Siを添加した高品質な薄膜を形成することに成功した。また、Siのドープ量に傾斜をかけた薄膜試料において、磁場印加中に光照射することによって、鉄イオン間で電荷移動が起こることを確認し、光電流の磁場制御に成功した。また、高い可視光応答性が期待されるBiFeO3を母体に用いたグラス薄膜をPLD法によって作製し、その特性を評価した。この薄膜に可視光を照射すると光電流が発生し、薄膜表面上では光照射で生成した正孔が水を酸化して酸素を発生し、対極(Pt)側では電子による還元反応によって水素が発生することを確認した。これは通常のn型半導体を用いた光電極と同様の挙動であるが、この薄膜を用いたセルではポーリング処理によって光電流値が変化することが分かった。これは、ポーリング処理によって誘起された特有のドメイン構造と自発分極が電子-正孔対の空間分離を促進(または阻害)するためであると考えられる。本研究では更に、ポーリング処理後に磁場(1T)を引加することによって、光電流が僅かに増大することが分かった。この現象は分極が無い状態では起こらないことから、スピンと双極子のクロスターム効果(電気磁気効果:M-E効果)の寄与を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
室温で学習機能を発現する脳機能模倣型・電子デバイスの開発に向けて最も重要な課題は、クラスターグラス酸化鉄薄膜において、グラス転移温度を上昇させることである。本研究では、二段階パルスレーザー堆積法を導入し、薄膜中の非磁性イオンの濃度を緻密に制御して室温付近の高温領域でのグラス転移温度を実現した。また、グラス転移温度以下での光励起電子移動による磁化変化を確認し、光電変換素子応用への可能性を示唆する結果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、非磁性イオン濃度を傾斜的に変化させた室温スピングラス磁性体薄膜を用いて、磁場中で光電流が増大する光電変換材料の作製に成功した。しかしながら、発電素子応用に向けては、更なる光電流の増大と発電効率の向上が課題となる。今後は、Siの添加量と濃度傾斜の最適化や、現在開発を進めている酸化鉄pn接合型素子の導入により、実用に耐えうる光電変換効率の実現を目指したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はエキシマレーザー用ガスの購入を予定していたが、想定していたよりも使用量が少なく、購入の必要がなくなったため。また、単結晶基板の購入額が当初の見積りよりも大幅に安価であったため。
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