研究課題
本研究の目的は、スピングラス磁性体・酸化鉄薄膜を用いて室温で動作する脳機能模倣型素子を開発することである。今年度は超低消費電力型デバイスの創製に向けて、パルスレーザー堆積法(PLD法)を用いてスピネル型・Al置換γ-Fe2O3(γ-Fe2-xAlxO3)の単結晶薄膜作製実験を実施した。この物質は従来マグノニクスの分野で精力的に研究されてきたガーネット型酸化鉄とは異なり、結晶構造が比較的単純で様々な結晶基板上で薄膜がエピタキシャル成長するため、ヘテロ接合型のマグノニクス素子への応用が可能となる。磁気測定の結果、作製された薄膜中のAl置換量の増大に伴い、磁化が減少することが分かった。また、Al濃度を増やすと薄膜の結晶性が向上することを見出した。これはFeよりも酸素との親和性が高いAlを添加することにより、酸素欠損が抑制されたためであると考えられる。これらの結果から、Al置換量を最適化することにより、x=0.15の試料でGilbertダンピング定数α=0.05が得られ、室温に置いてスピン波の伝搬を観測することに成功した。また、このAl置換γ-Fe2O3薄膜は室温においてスピングラス特性を示すことも分かった。今年度はさらに、擬ブルッカイト型Fe2TiO5-FeTi2O5結晶固溶体(Fe2-xTi1+xO5)の薄膜作製実験を実施した。基板にSrTiO3(001)単結晶を用いてPLD法で製膜することにより、広い組成領域(0<x<0.7)において高品質な固溶体単結晶薄膜が得られた。作製された薄膜はすべて室温において強磁性的挙動を示した。また、薄膜の電気・磁気特性はその組成に大きく依存し、特に、熱電特性はTi置換量によって劇的に変化することを見出し、x=0.5の組成において非常に大きなゼーベック係数(S=-1.65mV/K)が得られた。
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