研究課題/領域番号 |
18K18856
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
中村 雄一 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20345953)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | スピンゼーベック効果 / フォノニック結晶 |
研究実績の概要 |
スピンゼーベック(SS)素子を組み込んだフォノン遮断型人工磁気格子(P-AML/SS素子)の出力特性評価について、従来のフォトニック結晶の設計指針に基づき、まず単純なモデルを用いて、種々の構造を有するフォノン遮断型P-AML/SS素子の伝搬特性を評価した。その結果を踏まえ、実際にP-AML/SS素子を作製し、そのSS出力特性の評価を行った。P-AML/SS素子は、SiO2とTa2O5をイオンビームスパッタ装置を用いて5ペア積層し、その上にイットリウム鉄ガーネット(YIG)および白金を形成することで作製した。その際、Ta2O5の膜厚を一定としてSiO2の膜厚の異なるP-AML/SS素子について、膜面垂直方向の温度勾配をペルチェ素子により制御して、P-AML構造のSS出力電圧への影響を評価した。その結果、単純なモデルの予想と少々ズレが見られたものの、古典的な熱伝導理論からは説明できないSiO2膜厚によるSS電圧出力の変化が見られ、P-AML多層膜構造によるフォノン遮断に起因する温度勾配の変化が生じている可能性が示唆された。ただし測定毎のバラツキが比較的大きく、測定系における膜面垂直方向の実際の温度差に差異が生じている可能性も懸念された。 そこでYIGの膜厚方向の温度差とSS出力の関係を正確に評価するため、評価試料の表面および基板裏面に形成したPt膜の電気抵抗の温度変化から、試料膜厚方向の温度差を評価する手法について検討した。その結果、測定治具の構造、抵抗測定方法および得られたデータの処理方法などを工夫することで、数℃以下の微小な温度変化に起因する電気抵抗の変化からP-AML試料の表面と基板裏面の温度差を評価できるようになり、P-AML構造とSS出力の関係をより正確に評価できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点で目標とするフォノン局在型P-AML/SS素子の作製・評価には至っていないものの、フォトニック結晶の設計指針に基づいた単純なモデルによる計算結果とフォノン遮断型P-AML/SS素子のSS出力電圧評価結果から、P-AML多層膜構造によるフォノン伝搬の変化が得られている可能性は示唆されたと考える。また金属膜の温度変化を利用した温度差の推定手法についても、ほぼ目処が立ちつつあり、これによりP-AMLの構造がSS出力に与える影響も正確に評価できるようになると期待される。これよりおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
まずは基板の両面に金属膜を付けたP-AML/SS素子を用いて、その出力特性と温度差の関係を正確に評価することで、多層膜構造がフォノン伝導に及ぼす影響を明らかにする。これらの結果を踏まえ、フォノン局在に適した構造を明確化し、実際にその構造を作製した上で、SS出力に及ぼす影響を評価し、数値シミュレーションなどの評価結果と合わせて、P-AML/SS素子による熱流制御スピントロニクス素子に必要な構造・条件を明確化する。
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