研究課題/領域番号 |
18K18866
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
岩田 直高 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40708939)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | GaN / 有機金属気層成長法 / Mgアクセプタ / Siドナー / 活性化 / ArFエキシマレーザー / スーパー接合 / パワーデバイス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、MgとSiを一緒にドープ(共ドープ)したGaN層に対してp型領域を形成したい場所へArFエキシマレーザーの短パルス光を照射することにより、p型層とn型層を縦に並べたスーパー接合構造を実現することである。有機金属気層成長法により形成したGaN層では、ドープしたMgが水素で不活性化され、アクセプタとして働かないことが知られている。この活性化には熱処理が一般的であるが、活性化率が数%程度と低いうえにMgが偏析するなどの課題がある。我々は、ArFエキシマレーザーを用いたGaN中のMgアクセプタの活性化に初めて成功した。レーザー照射による不純物の活性化は極めて短時間での処理であるため、アクセプタの拡散を防ぐとともに、非熱平衡的な処理が施せる。 初年度には、MgドープGaNウエハにレーザーを照射して、熱処理と同等の活性化率とより高い正孔移動度を得た後に、SiとMgの共ドープしたGaNウエハの評価を開始したが、目論んだ伝導型の制御(成長後はn型でレーザー照射後はp型)までは至らなかった。 当該年度は、この結果を元に伝導型の変化が明確に認められるSiとMgの濃度とウエハ構造を検討した。具体的には、アクセプタ活性化の確認が容易な2種類のMgドープGaN/SiドープGaN構造ウエハを用いた縦型pnダイオードの検討を進めた。しかし、改良を加えたウエハの入手が9月末に遅れたことと、素子作製に使用する原子層堆積装置のポンプに不具合が下期に発生して1か月間修理を行ったため、試作が滞った。その状況で、MgドープGaN/SiドープGaN構造ウエハを用いた縦型pnダイオードの試作評価を進めた結果、接合容量とバイアス電圧の関係から、MgドープGaN層はMg不純物が活性化していることが判明した。一方、レーザー光強度が空間的に大きな強度分布を持つことと、照射中にも変動する課題も見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で示したように、初年度には、まずMgドープGaNウエハにレーザーを照射して、熱処理と同等の活性化率とより高い正孔移動度を得た。さらに、イエロールミネッセンスと呼ばれる欠陥に起因した発光も弱いことから、良好な結晶性が得られたと結論する。その後、Siを3.6×10 16 cm-3、Mgを5.2×10 19 cm-3共ドープしたウエハに対して、従来法の熱処理と開発したレーザー照射による活性化検討を行った。熱処理では、1×10 17 cm-3のp型化を認めたが、レーザー照射では1MΩ・mmまでの伝導性の変化は得られたものの、p型化を観測するまでには至らなかった。この実験の解析から、共ドープウエハの設計に重要な方針を得た。 当該年度は、SiとMgの濃度を調整して伝導型の変化が明確に認められるウエハ構造を検討した。すなわち、アクセプタ活性化の確認が判別しやすいように、MgドープGaN/SiドープGaN構造において、表面のMgドープGaN層を2×10 20 cm-3ドープした1層のものと、その下に2×10 18 cm-3ドープした2層化したものの2種類を検討した。その結果、接合容量とバイアス電圧の関係から、MgドープGaN層はMg不純物が2~4×10 17 cm-3活性化していることが判明した。一方、レーザー光強度が空間的に大きな強度分布を持つことと、照射中にも変動する課題も見出された。なお、改良を加えたウエハの入手を2回に分けたところ、2回目の入手がエピベンダの状況で9月末に遅れた。このとき、ドープ濃度を調節した共ドープエピウエハも入手したが、素子作製に使用する原子層堆積装置のポンプに故障が発生して下期に1か月間修理を行ったため、試作が滞った。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、3月初めより学生と研究員が不要不急の出校を控えるようになったことも進捗に影響した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で示したように、ドープ濃度を再設計したSiとMgの共ドープエピを入手しているので、これを用いた検討を進める。このとき、レーザー光強度が空間的に大きな強度分布を持つことと、照射中にも変動する課題の解決も図る。具体的には、スキャン方法の改良による光強度の均一化と照射ウエハ表面の雰囲気を制御する。これらの検討には、新たに設計したマスクシリーズを用いた試作を行う。この評価結果を基に、縦型スーパー接合デバイスの実現に向けたエピウエハ構造を確立する。 次に、スーパー接合構造を適用したデバイスの試作評価を行う。具体的には、高耐圧ダイオードの検討を進める。高耐圧化には、一緒にドープするMgとSiそれぞれの不純物濃度と活性化するGaN層の厚さの3つが重要なパラメータである。まずMgとSiのドーピング濃度は、先に示した検討の結果を用いて設計する。このウエハに対して局所的なp型活性化のために微細なマスクを設けて上方からレーザー照射を施し、縦型のpn領域の繰り返し構造を形成する。高耐圧特性のスーパー接合構造を得るためには、逆バイアス印可時にpn接合が同時に空乏化する必要があり、一様なn型層の所望の部分をp型に転換したうえでn型層と同じ濃度のp型層を形成しなければならない。次に共ドープしたGaN層の厚さは、所望の耐圧が得られる厚さが必要であるが、ArFエキシマレーザー光の侵入長は極めて浅いため、この特徴を元に活性化が光の侵入に付随した機構か熱による活性化機構であるかを議論する。さらに、それぞれの電極に対して低接触抵抗を実現するコンタクト層を設けて、実用的なデバイスの作製を行う。 なお、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための研究員と学生の出校禁止措置は、6月以降順次解除される予定であるので、感染防止策を徹底しながら、研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究進捗の遅れに伴って、改良されたウエハを用いたダイオードの試作が計画から半年遅れた。レーザー光強度が空間的に大きな強度分布を持つことと、照射中にも変動する新しい課題の解決も図りながら、試作と評価を進める。心配された研究体制も整いつつある(大学院学生の出校は8月中旬)ので、今年度末までに研究を完了する。助成金は、主に試作と評価に用いる薬品、蒸着金属や実験部材に使用する。
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