研究実績の概要 |
希薄磁性半導体と透明導電膜とを融合した「磁性透明導電膜」による有機材料へのスピン注入を検証し、その具体的なデバイス応用として有機EL素子からの発光の偏光制御を目指した。まず、磁性透明導電膜の作製と物性評価に特に注力した。具体的には、基板材料としてイットリア安定化ジルコニア(YSZ)単結晶、無アルカリガラス、ポリエチレンナフタレート(PEN)を用いてRFマグネトロンスパッタリング法によりMn添加ITO薄膜を作製し、作製した薄膜の結晶性をX線回折法により評価した。YSZ単結晶基板上への成膜では、エピタキシャル成長膜が得られる条件を見出した。ガラス基板上への成膜では、多結晶膜の成長を確認するとともに、特定の面方位が優先配向して成長する条件も見出した。また、PEN基板上に低温作製した薄膜はアモルファス様であることを確認した。加えて、作製したMn添加ITO薄膜の抵抗率を四探針法により評価するとともに、透過率を可視吸収分光法により評価した。いずれの薄膜も、Mnを添加したことにより、導電性と透明性ともに損なわれず、透明導電膜として十分に利用できる特性を有することが確認された。また、有機層を積層する前に磁性透明導電膜に対して大気圧プラズマ処理による仕事関数の最適化を行うための大気圧プラズマ源の開発も進めた。磁性透明導電膜に対して大気圧プラズマ処理を施すことにより、磁性透明導電膜の表面の平坦性がどのように変化するかについても検討した。さらに、得られたMn添加ITO薄膜上に、有機ELの正孔注入層として用いられる銅(Ⅱ)フタロシアニンと、正孔輸送層として用いられるN,N’-ジ-1-ナフチル-N,N’-ジフェニルべンジジンの薄膜を真空蒸着法により作製した。その結果、有機薄膜の形成過程が下地である磁性透明導電膜の結晶構造に大きく依存することがわかった。
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