研究課題/領域番号 |
18K18868
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
塚越 一仁 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, MANA主任研究者 (50322665)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 分子ナノ薄膜 / 分子挙動 / 分子厚結晶 |
研究実績の概要 |
有機薄膜強誘電P(VDF-TrFE)をナノスケール厚にすることで、一般的に現れるβ相ではなく、本来構造不安定なα相が安定化する。α相膜は、従来の限界を超える大きな誘電性と高速外部応答が期待できる。強誘電膜での双極子はグレイン内で相互作用して、全体としての電気特性を生じさせるので、単一グレイン化が理想的な効率的強誘電膜となるはずだが、従来は膜の不均一性で単一グレインを造れない。そこで、原子スケールで平坦な表面を作り出し、これに有機分子膜を形成することで、結晶粒界に分断されにくいサイズの大きい連続分子膜を作れるようになるはずである。大きな連続分子膜が自在に作れるようになれば、現在の微細加工技術を使うことでパターン形成が可能となり、応用展開への研究も加速することができるようになる。この目的のために原子スケール平坦な表面を有する基板を作り、そのうえで有機膜を形成して、機能化検証を進めている。 これまでの検証では、通常のSiO2基板を用いて、一般の研究では十分に平坦な表面であるにもかかわらず、分子結晶に対しては平坦性が十分でなく、分子結晶がグレイン化してしまうことが生じていた。このため、単グレインの評価には、原子間力顕微鏡のプローブを使わなければ評価ができなかった。この問題の解決のために、原子膜体積法等を用いて、原子スケールで平坦な表面を有する基板を作り、本有機膜を形成し、機能化を引き出す。 有機薄膜の特性を変調することを目的として、絶縁膜/半導体膜/導電膜を原子スケール平面平坦で作り分け、これらを積層して、本研究の基板とする。または、原子膜塗布法にて、凹凸表面を原子スケールの平坦面とすることができる。これらの技術を組み合わせて、本研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を推進するうえで必須の“原子スケールで平坦な表面の形成”、“分子膜形成と評価”を行っている。 ・圧電高分子膜 (P(VDF-TrFE)のα相は、tg+tg- (trans-gauche+-trans-gauche-)の組み合わせで図1のようなU字立体分子鎖で構成されている。10nm厚以下の薄膜化にて、分子膜は従来不安定なα相となる。これまでは、SiO2基板上に薄膜を形成し、プローブ顕微鏡で局所誘電特性を観察した。SiO2基板上での分子膜は、基板特有の凹凸(0.35nmRMS程度)を反映したグレイン構造となる。このグレインサイズと同サイズの分子誘電性が観測される。各種基板を用いて、分子膜を形成する試行錯誤を行った。予備的な評価として、基板表面の凹凸に極めて敏感に特性が依存していることが分かった。 ・上記有機膜の特性は、基板表面の平坦性に極めて敏感であり、平坦な表面膜を作れることが本研究のカギである。本研究での原子スケール平坦膜としては、2つを候補としている。①原子膜体積法(Atomic Layer Deposition)で原子スケール平坦な表面を有する半導体膜の形成、②凹凸のある基板表面に原子スケールで平坦な表面を持つ原子膜を塗布して、基板表面を平たんにする、である。本年は、まず、①を検討した。原子膜体積法で、酸化インジウム半導体膜を再現性良く作れる工程を見出すことができた。原子膜を1層ずつ積み上げる際に、各層の酸化を高めるように調整することが最重要のカギであり、難しい調整であった。厚さ5nm程度まで積層し、電極形成してトランジスタ特性を評価して、半導体となっていることを確認できた。この原子スケールで平坦表面の半導体の上に、同様に原子膜体積法で極薄の絶縁膜を作り、分子膜を作ることで、分子膜に電界効果を印加することができるようになる。
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今後の研究の推進方策 |
原子スケール平坦表面の基板を用いて、ミクロンスケールもしくはミクロン以上のサイズの数層の有機分子薄膜を形成し、機能化を試みる。現状では、基板表面の凸凹の影響が大きく、結晶サイズを大きくすることができない。ミクロンサイズ以上となれば、従来の電子ビーム露光などを使うことで、単一結晶内に素子を作りこむことができるようになる。この分子スケール厚の有機膜を微細加工で加工して素子を作り、機能化することを本研究の最終目的としている。 まずは、H30にて実現した原子積層法で形成した原子スケール平坦基板上に、有機膜を形成して特性の確認を行う。また、数10ミクロンサイズの原子膜(遷移金属カルコゲナイド層状材料、グラフェン、酸化膜ナノシートなど)を塗布できるような材料として合成して、基板上に貼り付け、ここに有機膜を形成することを試みる。 そのうえで、有機膜の特性をプローブ顕微鏡で検出して、表面での特性評価を進める。また、基板サイズの拡大のために、原子層積層の制御性を高める(これまでの実験結果から、原料供給と酸素供給のシーケンス時間を厳密に調整することで、平坦性が変動することがわかっている)。
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