研究実績の概要 |
新幹線・高速道路などの交通網整備は,短期的には都市間の人流・物流効率を大幅に改善する一方で,長期的には地方都市の経済活動が大都市に吸い取られる“ストロー現象(経済集積の進展)”をもたらす原因にもなっている.経済学分野では,この経済集積の主要因が “集積の経済” と呼ばれる「多様な経済主体の集中立地による正の効果」であることを示す理論・実証研究が蓄積されてきた.しかし,政策の空間分布を評価するための空間応用一般均衡(SCGE)分析をはじめとした既存の政策評価手法は,解析の複雑化を避けるために,集積の経済を考慮していない.したがって,既存のSCGE分析では“交通基盤整備による人流・物流効率改善”などの短期的効果は捉えられても,“それに伴う経済集積の長期的変化(ストロー現象)”は記述できない.
本研究は,この課題を解決するために,経済活動の都市集積メカニズムを考慮したSCGEモデルを開発するとともに,空間経済データ(国勢調査, 産業連関表, 物流センサス)を利用したモデル・パラメータ設定方法を整理した.さらに,その枠組が,ストロー現象を表現可能であることを確認するとともに,交通網整備が大都市・地方都市の人口・経済活動に与える影響を分析した.より具体的には,これまでに整備された高速道路が日本の都市人口分布に与える影響を,開発したモデルにより評価した.その結果,高速道路整備の主要な効果は大都市への人口集積であることが示された.ただし,1995年以降の整備は,それ以前とは傾向が異なり,地方都市への人口増加をもたらしていることも確認された.
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