研究課題/領域番号 |
18K18876
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
吉田 奈央子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10432220)
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研究分担者 |
カリタ ゴラップ 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20615629)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 微生物燃料電池 / 電流生産微生物 / 流れ / 電気化学培養 / 下水処理 |
研究実績の概要 |
本年度はアノードの電流生産活性を上げることを目的に、炭素アノードの電気化学的酸化を試みた。電気化学的酸化は、黒鉛フェルトを硝酸または硫酸溶液中で+2.0Vの電圧を30分間かけることで行った。XPS分析の結果、特に硝酸を用いた場合に炭素の酸化がより多く観察された。2つの電極について、無処理の電極と比較した結果、酸化処理を行った電極を用いた際に微生物の電流生産が促進された。しかし、酸で電気化学的に酸化を行う方法では、下水処理のような大規模な廃水処理に用いるアノードの製作方法には適さないと判断した。続いて、より簡便な酸化方法として、O2プラズマ処理を試みた。吸水試験の結果、未処理アノードに対しプラズマ処理アノードで吸水率が高く、さらに活性汚泥に浸漬した際の微生物の担持性が向上することが示された。このプラズマ酸化処理を行ったアノードを用い無処理のアノードを用いた場合と微生物の電流生産性を比較した。O2プラズマ処理は,植種から一定期間の電流の立ち上がり期に電流生産を促進し,培養全体を通して誤差が小さくなる傾向が観察された.しかし,培養開始からしばらく時間が経過した後では未処理と酸化処理アノードで差がなくなった.これは、時間経過によりアノード表面にバイオフィルムが形成されバイオフィルム表面で有機物が消費され,アノード内部に捕捉されている微生物に有機物を行き渡らないためと考えられる.そこで, 微生物バイオフィルム内で電流生産が活発に行われる領域を拡げる試みとしてアノードが設置されている汚水に人為的に流速を発生させ、バイオフィルム内部への基質供給を促進できないか試みた。嫌気的に保たれた状態で一定流速を与える流路を製作し、微生物燃料電池のアノード表面に流速を与えた結果、流速の増加に伴った電流生産の増加が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、炭素アノードの酸化処理が微生物の電流生産を促進する実験において、Geobacter sp. R4株のような純粋培養物では、無処理のアノードと比較して顕著で長期的な電流生産の促進効果が観察されていた。本年度、活性汚泥のような複合微生物群集を用いた実験を行った結果、培養初期に一定の効果が見られたものの、この効果が長期的に続くものではなかった。そこで基質拡散律速が生じていると考え、汚水中に流れを生じさせることで電流生産を促進することを試みた結果、特に有機物濃度が薄く微生物燃料電池の抵抗が小さい時に、最大で静置時の5.3倍の電流生産が観察された。この電流生産の促進効果は、アノードの材料の表面改質を行ったときに比べて大きく、MFCの配置を工夫することで流速をなるべく与えて電流生産を促進するアプローチが重要であることが示された。また、Geobacter sp. R4株を用い、酸化処理を行ったアノードと無処理の材料でRNAシーケンスを行った培養物よりタンパク質を抽出しシトクロムを検出しMS解析を行い、各電流生産条件において発現したシトクロムを同定した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究において、アノードバイオフィルムの活性領域の拡大には基質供給の促進が重要であることが示された。また、昨年度の研究において、微生物燃料電池のセル、アノード、およびカソード電流を別々にリニアスイープボルタンメトリーにより測定した結果、アノードおよびカソードの電流がセル電流に比べて大きいことが示された。このことは、我々のMFCにおいては、セパレータにおけるイオン移動が全体のセル電流を制限することを示している。つまりアノードをこれ以上改良しても、汚水有機物濃度が十分ある場合ではセル電流を促進できないことを示している。また、セパレータは薄くなるほど高価であり改良の余地がない。また、実用規模のMFCとして深さ1mの装置を用い上段・中段・下段でカソードおよびセル電流に大きな差があり、下段では電流が減少した。これはカソード内部で電子を受け取る酸素の供給に律速があることが示された。これよりカソード内部の空気供給を検討する必要がある。以上の状況から、今後は特に滞留時間の後半で基質が薄くなった場合にアノードバイオフィルムの活性領域の拡大することを狙って流速に着目する。流速をミカエリスメンテン式に組み込んだモデルを作成し処理槽全体の基質供給、分解ならびに電流生産を計算し、MFC配置から生産電流を予測できる方法を確立することに注力する。さらにカソードについても現状のデッドエンド構造から循環性を良くするものに改良し、電流生産に与える影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初、アノード電流に炭素アノードの表面性質が大きく寄与すると考え、多様な酸化処理を試みるべく、アノードの酸化処理費用を大きく計上していた。しかし、研究を進めた結果、アノードの表面性質が影響するのは培養初期に限定されたことから、より長期的な電流生産のため、流速制御による基質供給促進に注力した。これより、酸化処理ならびに酸化炭素の分析費用が少額で済んだ。このような状況から、今後は流速制御・流速解析ならびにカソードまたはセパレータの製作・評価に使用する。
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