研究実績の概要 |
昨年度までにGeobacter sp. R4株をモデル微生物として炭素材料の酸化処理の有無が電流生産の長期安定性ならびに代謝経路に大きく影響することを示してきた.培養物の外観の観察ならびにトランスクリプトーム解析の結果から、黒鉛フェルト/酸化グラフェンといった炭素材料の違いはそれぞれ生物膜形成/水溶性電子キャリアーを介した電流生産という代謝の転換を引き起こすことが明らかになった。一方、黒鉛フェルト/酸化グラフェン上で培養したR4株の租タンパク抽出液をSDS-PAGEしヘムタンパク質を活性染色後にバンドを切り出しLC/MS解析した結果ではメジャーなシトクロムは同じであった.よって、最終的に電極へ直接的に電子伝達をするか/水溶性キャリアーを介して電子伝達をするかの違いはあるものの、クエン酸回路で得た還元力を, 呼吸鎖を通じて外部へ電子を伝達するまでの代謝経路に大きな違いはないと結論づけた.さらに本年度は、下水MFC等から新たに分離した種レベルで新規な3株について酸化グラフェン/黒鉛フェルト/黒鉛板を用いた培養を行いR4株に観察された炭素材料の酸化処理によるバイオフィルム形成の促進がみられるか試みた結果、いずれの炭素材料においても生物膜を形成したことから、炭素材料の酸化処理の有無がバイオフィルム形成/水溶性電子キャリアーを介した電子伝達の違いを生むのはGeobacter sp. R4株に特有であると考えられた.これより、アノードの電流生産を促進する方法として表面の化学組成から、汚水中のバイオフィルムへの基質供給を促進する方法へと転換した. 応用面では、ラボスケールの微生物燃料電池リアクターを製作し、下水からの電流生産をモデル化した。これより、特有のアノード構造または流路におけるバイオフィルム周りの流速計算が行えれば電流値および有機物分解速度を予測計算することができるようになった。
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