研究課題/領域番号 |
18K18880
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高谷 哲 京都大学, 工学研究科, 助教 (40554209)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 表面被覆材 / ラマン分光 / コンクリート |
研究実績の概要 |
近年,高度経済成長期に大量に建設された社会基盤構造物の老朽化が社会問題となっている.コンクリート構造物は内部鋼材の腐食やアルカリシリカ反応,化学的侵食,凍害など様々な劣化を生じている.これらの劣化の多くは水を介在するものであり,劣化を防ぐために表面被覆材としてコンクリート表面に有機系塗膜を施工することも少なくない.しかし,表面被覆材の耐候性や現場において健全度を評価する手法がないのが現状である.そこで,本研究課題では,現場で評価可能な手法としてラマン分光法に着目し,コンクリートの表面被覆材として用いられる有機系塗膜の劣化指標を作成することを目的としている. アクリル系トップコートを塗布したモルタル基盤の促進耐候性試験を行い,ラマン分光分析を行った結果,劣化の進行に伴い蛍光によるバックグラウンドが大きくなることが確認された.分子軌道法を用いた解析の結果,この蛍光は-COOが切れて-COOHになることによるものであることが分かった.そのため,この蛍光強度を用いて劣化度を評価できる可能性が示されたが,ラマンスペクトルにおけるピークの強度は定量的な指標として用いることができないため,光退色を利用して光退色曲線による指標の構築を試みた.その結果,劣化が進むほど光退色が遅くなることが分かった.また,促進耐候性試験体と暴露試験体の光退色曲線を比較した結果,同様の傾向を示し,促進耐候性試験と暴露試験では劣化メカニズムに大きな違いがないことも確認された. 現在は,他の種類のトップコートでも同じ評価ができるか確認するための試験体の作製を行っているところである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に記載していた蛍光のピーク強度での評価は難しかったが,光退色曲線を用いることでピーク強度を無次元化し,劣化指標を作成することができた.また,暴露試験体との比較も行うことができた.今後は他の材料でも同様の方法で評価できるかを検討する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度ではアクリル系(アクリルウレタン)トップコートを用いたが,現在実際の橋梁の塗替えで用いられるアクリルシリコン系トップコートでも同様の評価ができるか検討するために試験体を作製している.試験体養生後,促進耐候性試験を行い,ラマン分光法による評価を行う.また,加えて紫外線透過性試験なども行い,トップコートの劣化と性能の関係についても検討することとする.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は既に作製した試験体を用いて試験をすることができ,ラマン分光分析も当研究室所有の装置を用いることができたため,分析の外部委託の必要がなかった.そのため,新たな材料を施工するために作製した試験体の費用と被覆材の塗布にかかる旅費の支出のみであった. 新たに作製した被覆材の劣化メカニズムが平成30年度に用いた材料とは異なる可能性があるため,赤外分光分析やより詳細なラマン分光分析などに使用する予定である.また被覆材の劣化そのものは評価することができたが,物質透過性や紫外線透過性などの性能とは結び付けられていないため,被覆材の性能評価試験にも使用する予定である.
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