研究課題/領域番号 |
18K18909
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今村 太郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30371115)
|
研究分担者 |
李家 賢一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20175037)
横関 智弘 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50399549)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 流体力学 / 流体制御 / モーフィング翼 / 風洞試験 / 流体構造連成 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,空気力を受動的かつ積極的に利用する新しいモーフィング翼型の空力特性を解明するとともに,より効率的に変形する新しい構造や,新しい空力デバイスの可能性を探索することである.モーフィング翼とは,飛行状態に応じてその形状を変化させる翼であり,航空機の飛行時間短縮や燃費低減を実現する技術である.従来のモーフィング翼型の学術研究は,流れの条件に応じて決まる最適な空力形状を,いかに構造的に実現させるか,という観点から行われる研究が中心であった.従って,変形は様々なアクチュエータを用いた能動制御であった. 本研究では,翼型周りの流れ場によって生じる圧力分布の変化を積極的に利用し,受動的に変形する翼型の可能性を探査する点において,全く新しいモーフィング翼型の分野を創出しようとするものである.H30-31年度の2年間にわたる研究の初年度は,アクチュエーターを搭載せずに動圧のみで変形する翼型模型を製作し,空気力と構造変形の望ましい連成について検討を行った.続いて研究室が所有する600mm×600mmの低速風洞を用い,その変形量はデジタルカメラを用いて光学的に計測した.その変形形状は想定通りのものであり,流れ場によって生じる翼型模型の表面圧力分布の変化を積極的に利用できる可能性が示された.また模型に働く力計測を行うために,力計測を行うための実験系を構築した.翼型模型に発生する揚力係数を計測し,従来型の固い翼型模型との比較実験より,申請者の提案する動圧のみで変形する翼型模型は,高迎角域で高い揚力を発生することを世界で初めて風洞実験を通じて明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は,はじめに風洞模型の製作から取り掛かった.二次元翼型模型の大きさは翼弦長200mm,スパン長200mmであり,NACA0024翼型を基準の翼型(空気力がかかっていない状態)として採用した.翼模型の前縁部30%は非可変で,後縁部分70%が可変な構造である.可変構造部分については,内部構造を複数変化させ,空力と構造の連成にどのような変化が現れるか,調査を行った.模型の製作にあたっては2種類の3Dプリンターを利用した.翼形状を製作するための治具も3Dプリンターを用いて製作することにより,翼型模型の製作誤差を小さくする工夫を行った.風洞試験には研究室が所有する600mm×600mmの低速風洞を主に使用し,風速10~13m/sで実施した.本実験では,2次元翼試験を行うために端板2枚を地面と平行に配置し,その間に翼型模型を設置した.一方の端板には,模型の変形量を評価する画像をデジタルカメラで撮影するために透明なアクリル板を用いた.風洞実験において変形したモーフィング翼の変形量を定量的に評価するために,撮影した翼型模型の画像から形状を数値データとして抽出するプログラムも構築した.また,模型に働く力を計測するため,新しく天秤計測系の設計と構築を行った.迎角を変更するためのロータリーステージを使用し,その上部に6軸力覚センサを用いた.力覚センサは,風洞出口面内に設置してあるため,力測定への気流による影響を除くためにセンサの周りに風防を設置し,気流の影響による出力の変動を抑える工夫を行った.実験に当たっては,流体構造連成現象のより詳細な理解のため,数値流体解析を適宜実施し,実験へのフィードバックを行った.また,3Dプリンターを用いた表面圧力計測模型を作成し,翼型周りの圧力分布が得られる目途がたった.
|
今後の研究の推進方策 |
H30年度の研究を通じて、アクチュエーターを搭載せずに動圧のみで変形する翼型の揚力係数が高迎角域で増加することを世界で初めて風洞実験を通じて明らかにした.また表面圧力係数分布の計測を通じて,変形量と揚力増加の関係性も明らかになってきている.この点において,H30-31年度に実施する予定であった研究計画においてミニマムサクセスは達成したと考える。 H31年度は,前年度の成果を踏まえた様々な改良及び現象の理解を深める作業に取り組む.はじめに,翼型模型の可変部分の内部構造の改良に取り組む予定である.H30年度は10%コードごとに真鍮製フラットバーをストリンガとして外板に貼り付け,ストリンガの両端にスポークを取り付ける構造としていたが、低速(一様流が10~13m/s)での試験のため変形量が小さい場合や,逆にフラッター振動が発生しまう事象があった。そこで,振動の減衰効果のあると期待される柔軟な変形が可能な樹脂を3Dプリンタで印刷し、模型を製作する.より風洞試験を実施しやすい,振動の少ない模型製作方法についての検討を進める.並行して,動圧のみで変形する翼型の流体解析と構造解析を進め,風洞試験結果のより詳細な理解,より良い変形性能を持つ翼型の内部機構について検討を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験系構築に当たり必要設備を再検討したところ,空気力計測天秤以外にも回転台や支持機構を揃えることが効率的な実験の実施のためには必要であることが明らかになった。そのため当初検討していた日章LBM-3566の購入が困難であることが判明した。他の力覚センサーを調査したところ、より試験の目的に叶った適切なものが見つかったため、そちらを調達した結果、若干の使用残高が生じた。使用残高については、風洞試験では各種機器の故障がつきもののためその予備費として活用するとともに、海外発表を含めた積極的な成果の発信に努めていきたい。
|