航空機の翼やエンジンなどに氷が付着する着氷現象は、過去にたびたび重大な航空機事故の原因となっている深刻な問題である。本研究では超音波による過冷却解除を用いて氷の付着を抑制する新しい手法を提案する。過冷却状態にある水滴は外部からの刺激により過冷却が解除され固体の氷滴に相変化する。過冷却の水滴が空気中で氷となった場合、翼との接触面積が減少し、付着力は急激に減少する。 令和2年度においては提案する手法について市販の大型冷凍庫を改造して着氷実験装置を構築し、これを用いて手法の開発を行った。過冷却液滴の凍結の実験は再現性を得ることが難しいことが昔から知られており、このことに加え水噴霧装置の凍結などもあり実験装置の構築は難航した。それでも最終的に再現性のある着氷実験装置を製作し十分な精度のデータを取得することができた。特にこの装置により着氷物の非定常的な質量増加を精度よく観測することに初めて成功した。超音波による過冷却解除は予測に反しあまり効果的なものとはならなかった。一方で表面へのコーティングが着氷抑制に効果的であることがわかった。撥水コーティングにより着氷物上での氷の成長を抑制する効果があることが確認された。また撥水コーティングの効果は庫内温度に影響されることも確認された。さらに令和2年度も室蘭工業大学の有する白老実験場にて提案手法のフィールド実証を行う計画であったが、コロナウイルス蔓延の影響もあり出張が制限され実証実験を実施することができなかった。一方、得られたデータについて国内学会で2件の発表を行った。加えてこれまでに得られた成果をまとめて投稿論文を執筆し、国際誌に投稿した。
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