研究課題/領域番号 |
18K18912
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
横田 久美子 神戸大学, 工学研究科, 助手 (20252794)
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研究分担者 |
田川 雅人 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (10216806)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 宇宙環境 / 原子状酸素 / フッ素系高分子材料 / 高質量分子 / 材料劣化 |
研究実績の概要 |
これまで地球高層大気による材料劣化現象は宇宙機の前面で顕著に観察されることから、その発見以降30年以上にわたり、地球高層大気成分で化学的に活性な原子状酸素によるものと信じられてきた。この仮定のもとで2004年に制定されたASTM E2089-00に準拠してこれまで全ての材料試験が行われてきたが、フッ素系材料など一部の宇宙用材料では軌道上での劣化現象と地上実験との間に不整合が生ずることが知られており、30年以上にわたり宇宙工学上の未解決の問題となっている。本申請ではこの未解決の問題に対して全く新しい仮説を導入することより解決を図ることを目的とする。その仮説は、「FEPなどのフッ素系高分子材料の宇宙環境における劣化要因は、これまで信じられてきた原子状酸素ではなく、高エネルギー窒素分子の衝突によるものである」というものである。本研究では、この仮説を証明することと、この新理論に基づいた新しい宇宙環境地上実験に関わる国際基準を制定する道筋を作ることを本研究の目的とするものである。本仮説を証明するためには、多様な条件下での材料劣化挙動を明らかにするため、宇宙環境地上試験のスループットを向上させることが必要不可欠である。そのため、リアルタイムでの質量変化計測を実現する方法として、プラズマアシスト蒸着法開発者である大阪府立産業技術総合研究所の岡本昭夫博士の技術指導のもとでQCMクリスタル上にフッ素系薄膜を形成しサンプル作製を行った。QCMサンプルに照射するN2およびArビームについても、そのビーム形成と安定照射に向けての準備を行いつつあり、サンプルホルダー上のフラックス分布や長時間を要する照射の自動化等の改良を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本プロジェクトではフッ素系材料などで軌道上での劣化現象と地上実験との間に不整合が生ずる原因について、申請者らの提案する「フッ素系高分子材料の宇宙環境における劣化要因は原子状酸素ではなく、高エネルギー窒素分子の衝突によるものである」という新仮説を検証し、この新理論に基づいた新しい宇宙環境地上実験に関わる国際基準を制定する道筋を作ることを目的とするものである。本仮説を証明するためには、多様な条件下での材料劣化挙動を明らかにするため、宇宙環境地上試験のスループットを向上させることが必要不可欠である。フッ素系高分子のリアルタイム質量変化を計測するため、プラズマアシスト蒸着法によりQCM上にフッ素系薄膜を形成することを予定していたが、本手法の開発者である岡本博士のご協力により、大阪府立産業技術総合研究所で保管されていた同装置よりサンプル作製が可能になった。そのため、実験計画ならびに購入備品等の大幅な変更が必要となったが、蒸着条件の最適化にこれまでのデータが適用可能になることから、全体としては大幅な予算、工数の削減、およびリスク低減が可能となった。QCMサンプルに照射するN2およびArビームについても、そのビーム形成と安定照射に向けて、照射条件の自動調整機構の設計指針が確立しつつある。また、原子ビームの詳細分析のための超小型質量分析管の適用や、最新の電流電圧プリアンプと高機能デジタルオシロスコープの組み合わせによる電流計測飛行時間解析システムの構築など、原理的に長時間安定照射が要求されるフッ素系高分子材料の劣化挙動解析を可能とするシステム構築を行いつつある。 新型コロナウイルスの影響により、FY2019年度末から装置改造計画に若干の遅延が生じているが、感染が終息すれば2020年度内での遅延回復が可能な状態である。
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今後の研究の推進方策 |
FY2020年度にはプラズマアシスト装置でQCMクリスタル上に蒸着したフッ素系高分子薄膜のキャラクタリゼーションを行い、サンプルの照射前評価を行う。同時にFY2019年度に整備したN2およびArビームにより原子状酸素ビームとの多様な条件での同時照射実験を行う。FY2019年度に本研究グループの提案によりフッ素系高分子サンプルの宇宙曝露実験が超低軌道試験機「つばめ」を用いて行われ(MDMミッション)、フライト実験の解析が本年度中には得られる予定である。この宇宙実験解析と地上実験を同時並行的に行うことで、地上実験結果と宇宙実験結果をリンクさせることができ、さらに強固なエビデンスを得ることが見込まれる。 今年度はプロジェクト最終年度であるために、本研究の総括を行い、関連分野の国際会議において解析結果を公開することで、国際基準改定の必要性を訴えることにより、新国際基準形成に関する環境醸成に注力してゆく。ただし、国際協力が必要となる部分は新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けるため、状況によっては次年度以降への課題として積み残しが発生する可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
FY2019年度にSLATSに搭載されているSLATS/AOFSデータ解析を行った結果、大気モデルと実測された大気密度には大きな差異があることが確認され、大気モデルの精度が疑われる事態となった。そのため、大気モデルをベースとした解析では結果の信頼性が担保できないため、地上実験にあたってはビーム組成の評価が極めて重要であることが示唆された。そこで、FY2019年度に研究計画を見直し、ビーム組成の詳細評価を行うための四重極質量分析管システム等を新たに導入し、自己責任による大改造を施すことによりビーム診断に適用することとした。この計画見直しに付随して、備品購入計画等の再考を実施したため支出計画が次年度にずれ込んだ(現在、四重極質量分析管(1,144千円)は発注済・納品待ちの状態である)。
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