研究課題
地球高層大気による材料劣化現象は宇宙機の前面で顕著に観察されることから、地球高層大気成分で化学的に活性な原子状酸素によるものと信じられてきた。この仮定のもとで2004年に制定されたASTM E2089-00に準拠してこれまで全ての材料試験が行われてきたが、フッ素系材料など一部の宇宙用材料では軌道上での劣化現象と地上実験との間に不整合が生ずることが知られており、宇宙工学上の未解決の問題となっている。本申請ではこの宇宙工学上の未解決の問題に対する答えとして、「フッ素系高分子材料の宇宙環境における劣化要因の一部は、高エネルギー窒素分子の衝突によるもの」という仮説を実証するものである。本研究では、高精度な質量変化計測のために、QCM上に新たにフッ素系薄膜を形成するとともに、原子状酸素および窒素分子同時衝突環境を模擬した原子状酸素アルゴンビーム同時照射技術を開発し、ビーム照射中の薄膜試料の質量変化をリアルタイム計測した。その結果、フッ素薄膜劣化の基準となる炭化水素薄膜の質量減少はビーム中のアルゴン割合によってリニアに増加することが観測された。この結果は材料劣化評価の基準自体が環境の影響を強く受けることを示している。一方、フッ素薄膜については、原子状酸素の含まれていないアルゴンビームのみでも質量減少が生じることが地上試験で確認されたことから、原子状酸素の化学的な性質によらない物理的な劣化が生じていることが明らかになった。SLATS/MDMミッションに搭載されているフッ素材料の劣化現象については、現在、詳細なデータ解析を行っているところである。これらの結果を踏まえて、2018年には本分野の国際会議において新仮説を説明し国際基準の改定の必要性を提案した。一部の参加者からは必要性について賛同を得ており、現在のところコロナ禍で遅延しているものの近い将来に新国際基準形成に関する議論が期待される。
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CEAS Space Journal
巻: 14 ページ: -
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http://www.space-environmental-effect.jp/index.html